もう一度だけ、キミに逢いたい。
母さんも入院するまでは料理、掃除、洗濯など、家のことを完璧にやっていたから、母さんが忙しい時間は俺が弟の夏樹の面倒をみたりしていた。
食卓を囲む時もいつも三人だったし、父さんと一週間顔を合わせないことも別に珍しいことではなかった。
家族全員で出かけた思い出なんてまずない。
母さんと夏樹と三人でなら何度かあったけれど、母さんの体のこともあってそれだって片手で数えられるほど。
まだ俺が小学生になったばかりの時、そのことに疑問を持って、「周りのともだちはみんな家族で旅行に行ったりしているのに、どうしてうちはちがうの?」と素直に母さんに聞いてみたことがあった。
すると、母さんは少し悲しそうな顔を浮かべてこう言ったんだ。
“…ごめんね。母さん、生まれつき他の人よりも体が弱いのよ。そのせいであまり遠くに行くことをお医者さんに禁じられているの。それに、お父さんもお仕事忙しくてなかなか帰って来れないでしょ?本当にごめんね、伊織にも寂しい想いさせてるよね。”
って。