那須大八郎~椎葉の『鶴富姫伝説』~
 水流は椎葉に着いてからの事を順次話し始めた。
「我々が椎葉に着いた時、村人は皆警戒しておりました。若い男が数人 、刀だか長刃物(どす)だかを手に近づいてきて切先を向けてきたんですが、大八郎は刀を抜くことなく棒きれで捌いてしまいました。その時です。歳を取った女が〈義経様じゃあ、義経様じゃあ。〉と大きな声で叫びました。 私は最初誰のことを言っているのか分からなかったのですが、どうやら大八郎を見て言っているようでした。すると直ぐに村の長がやって来て我々を家に招きました。 まもなく鶴富姫も呼ばれ姫は大八郎の隣に座らせられました。夜の宴でも鶴富姫は大八郎の隣です。そこで聞いた話が驚きだったのですが、どうやら鶴富姫は常磐御前の血を引いているようです。」
「それだわ、きっとそれ。常磐様の血を引いているのなら色蜘蛛もへったくれも無い。天性の魅力で男からかしづくわ。そうすると母親は能子(よしこ)かしら。」
「尼御台のおっしゃる通り、天下第一の美女と称された廊の御方(ろうのおんかた)です。鶴富姫は常盤御前にそっくりだとか。 その常盤御前、千人はいるかという宮中の雑司女の中で最も美しい言われていたそうで はないですか。年配の村人たちは清盛様・義経様・常磐様を思い出して盛り上がっておりました。話を聞いていくとどうやら鶴富姫の父は藤原兼雅様。」
「それはそれは育ちが良くて美しいのも納得できる。何かの縁かもしれない。」
 水流には縁という言葉が引っかかった。政子が大八郎について何か隠していると以前から思う節があった。大八郎の父親は那須資隆(すけたか)ではなく源氏のかなり名のある武将ではないかと。
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