Limited-lover
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今日も定時で上がって、エントランスで待ち合わせして、受付嬢さん達の視線を浴びながら、宮本さんと退社。


…せめて手を繋がなければ良いのだろうけれど。


「行こ。」


合うなり宮本さんは遠慮なしに私の手をギュッと握って上着のポケットに突っ込む。


「いいなー!私も手、繋ぎたい…」
「そろそろしちゃえば?告白」
「だよねえ…そろそろ付き合いたいかも~」


…告白したら付き合える事前提の会話。


私が彼女という事に関しては全く無関心だな。
というか、むしろ彼女の心の支えになっている感じ…

なんて、今日も空笑いしながら、ビルを出た。


まあ…一週間経てば宮本さんはフリーになるんですけどね。
願わくばそこまでは告白を待って欲しい。


いや、それで上手く行くのを目の当たりにするのも辛いけど。


なんて、意識がマイナスに行っていたんんだと思う。


「…何?調子悪いの?」


二駅電車に乗って着いた居酒屋さん。天井には木で作られた大きな換気扇がゆったりとまわっていて、木のテーブルが並ぶ個人経営の所で。「カウンターでいいよね」と宮本さんに席に案内されて、軽くビールで「お疲れ様」とカンパイした後すぐに、一口飲んだ宮本さんが私を横から覗き込んだ。

しまった。
憂鬱が顔に出てたんだ。


「いえ。仕事の後の一杯は最高だなーってしみじみ思ってただけです。」


笑ってそう言ったら、目の前にポテトの大盛りが置かれた。


「健太と同じ事言うな。気が合うってヤツか!」


がははと笑う豪快な感じのマスターのお兄さん。


「…松也さん、今日ある?」
「おう。なーんかお前が来る予感がしてよ。仕入れといた、挽肉。」


挽肉…もしや。


「ハンバーグですか?」
「ハンバーガー。」


…昨日ハンバーグで今日ハンバーガー。
本当に好きなんだ、宮本さん。


「美味いよ、かなり。」


既に一杯目を飲み終えて、二杯目を飲み始めた宮本さんがポテトをパクッと口に入れる。


…ポテトをつまむ指が可愛い。
宮本さんて、手足がスラッと長いのに、指が丸っこいよね。


「常連なんですか?ここのお店。」
「んー…時々食いに来るかな。まあ、なんせ一人暮らしだからね。夕飯どっかで食べるか買うかだし。」
「でも、女連れてきたのは初めてだろ!やー!健太がねえ…」


ニヤニヤと笑いながら“松也さん”と呼ばれたマスターさんが何やら手元を慌ただしく動かし作っている。


良い匂い。

ハンバーガー楽しみ…


「…別に初めてじゃないじゃん。サクラとも来てんだから。」


出て来た名前に、私だけが多分、えらく心の中で反応したんだと思う。


「お前なあ…折角お株を上げてやろうって俺が気を遣ってんのに。それにサクラはカウントしないだろ。」


マスターもサクラさんを知っているらしくて、楽しそうに笑ってる。


動揺がバレない様にそっとビールを喉に流し込んだ。


そっか、サクラさんとは来た事あるんだ。
しかも…当たり前みたいにサラッと言える程、“特別”なのかな、サクラさんは。


そこまで気持ちがマイナス方向に行ったところで、いかんと自分を叱咤した。


サクラさんは数に入らない、『彼女』は私が初めてだってマスターが言ってくれてるんだから。それを喜ばないと。


「はいよ、お待たせ。」


目の前に出された大きなハンバーガー。

切れ目が入っていて、二つに分かれていた。


「どーぞ」とお皿を少し私の方へ押してくれる宮本さん。

「ありがとうございます」とハンバーガーを私が持ち上げると、自分ももう片方を手に取った。

いただきますと口に入れると、肉汁がじゅわっと口の中に広がる。


「……美味しい。」


どちらかと言うと塩味。少しレモンペッパーが利いているかもしれない。爽やかな酸味とピリッとした辛みを感じる。少し焼いたバンズの甘みとよく合っている。


「でしょ?美味いんだよね、松也さんのハンバーガー」


頬張りもくもくと食べながらご機嫌に笑う宮本さんのほっぺたが膨らむ。


…いちいち可愛いな。


そんな宮本さんを見ながら私も頬張る。

宮本さんと一つのハンバーガーを二人で半分こして食べる日が来るなんてな…


「…本当に美味しいですね」


幸せで頬がゆるゆる。


「すげー顔がだらしなくなってんじゃない。そんなに気に入ったの?」


そんな私を眉を下げて笑う宮本さん。


…わからないよね、きっと。
ハンバーガーもビールも、こうやって宮本さんと一緒に食べたり飲んだりするから格別になるんだって。


でも別にいいの。そういう私の気持ちが伝わらなくても。
本当に今、幸せを感じていて、それは宮本さんがくれているものだから。


一週間後には無くなる幸せ。
ちゃんと噛みしめて、覚えておこう……



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