Limited-lover
.



ど、どうしよう……来てしまった、宮本さんのお宅まで。


「そこのソファにでも座ってて?」


上着を借りたハンガーに掛けたら、宮本さんはそう言って洗面所へ消えて言った。



『じゃあ…行こっか。』と私の身体を離した宮本さんは代わりに私の手をギュッと握ってポケットに突っ込むと、少し早歩きで駅に向かって。
改札を通る時以外、全く手を離そうとしなくてずっと握って捕えたまま、ほぼしゃべらなくて。
…途中コンビニに寄った時は、繋いでいた手を離したか。

「寄ってっていい?」って言われて一緒に入って…
そうだ、お泊まりするなら、簡易的なお泊まりセットを…と色々手に取ってみて思った。

何か……生々しい。


交際4日目にして、バカな事を言ってしまった自分を恨んだ。(でも結局お買い上げ)


『やっぱり今日は』ってどこかで言えば良かったのかな…

でも、宮本さん、ずーっと押し黙っててほとんど喋らないからそれも言い出しづらい雰囲気だったし…

「ん。」


後悔の念が押し寄せて来て、すっかり落ち込み俯いている視界に綺麗にたたまれたグレーのスウェットが入り込んできた。


「風呂沸かしてきたから、入ってくれば?」


恐る恐る受け取ったそれ。


「それ、大して着てないから。」
「あ、あり…がとう…ございます。」


それを見届けてから、ドサリと隣に腰掛けて、テレビを付ける宮本さん。


「あ、あの…宮本さんが先に入ってください…家主なんだし。」


リモコンを持ったまま、私を見るとまたテレビに視線を戻した。


「…家主だから後じゃない?普通。」


淡々と話す感じがいまいち冷めたい気がして


「…入って来ます。」
「うん、ごゆっくり。」


結局、先に入らせて頂く事に。


…私が『試してみますか?』って言ってから、宮本さん、全然笑っていないかも。
やっぱり迷惑だったのかな…

最初にあんな告白してるから、幻滅って感じでもなくて。
私の申し出に「一週間しか付き合わないんだし」って無理して乗っかったのかもしれない。


洗面所に入ってドアを閉めて、両手でスウェットを握りしめた。

…帰りたい、今更だけど。



お風呂は丁度良い温度で身体が芯から温まる。


一つ溜息をついてから、あがって、スウェットに袖を通した。


宮本さんの洋服を着てるんだ、私。

素肌に触れるその布の感触に宮本さんに抱きしめられた時の温もりを思い出して、やたらと鼓動が早くなる…けど。


鏡を見てそれどころじゃなくなった。
そういや、私、すっぴんじゃん。


いや、そんなに厚化粧しているつもりはないけれど、25歳ともなればそれなりにやっぱりメイクはしている。


……いいのか、見せて。


とはいえ、ここで躊躇して宮本さんのお風呂の時間が先延ばしになってしまうのは良くない。


ま、まあ…告白からやらかしているんだし、それこそ今更かな…。


とりあえず、タオルを頭からかぶって部屋へと戻ると、宮本さんはソファの下にアグラをかいてゲームをしていた。


「お先です」と言った私の方を一瞥して、「うん」とまたすぐにテレビ画面へと目線が戻る。


私が遠慮がちにソファに座るとコントローラーをローテーブルに置いて立ち上がり、画面をテレビに切り替えた。


「じゃあ、俺も入ってくるわ。」


そう言い残して洗面所へと去って行く。


…やっぱり笑わない。


どうしよう。
このまま、『迷惑なヤツ』って…昼休みも呼び出してくれなくなって、そのまま一週間過ぎちゃったら。


そんなの…嫌だ。
でも、今更『帰ります』とも言えない…


そのまま悩み続けること10分も経っていないと思う。


「…今日もちょっと疲れてる?」


お風呂からあがってきた宮本さんがソファの隣に腰を下ろした。


…早いな、お風呂。
男の人ってそんなもんなのかな…。


ガシガシと頭を拭いている宮本さんを見ていたら、タオルの隙間から視線がぶつかる。
濡れた前髪が目に少し被っていて、垣間見えるその顔に色気を感じて思わずゴクリと息を飲んだ。

次の瞬間、私の頭に乗っかっていたタオルがフワリと剥がされる。


「……ずっと濡れたタオル被ってたら風邪ひくよ。」


自分で使っていたタオルを私の頭にかけると、そのまま今度は私の頭を少し拭きだした。


「す、すみません……」


慌てて頭に手を乗せたらその手を抑えられて、頭ごと引き寄せられる。

ふわりとそのまま唇が重なった。


「…化粧落とすと少し幼顔になるんだね。」


あ……笑った。





< 15 / 49 >

この作品をシェア

pagetop