Limited-lover




…うん。マイナス思考になってる場合じゃない。今はくよくよ考えて居る暇なんてないもんね。とにかく頑張って仕事をして早く帰らなきゃ。



気合いを入れ直し、午後の業務に臨み、何とか定時で今日も上がれて、そのままスーパーへと向かう。


とりあえず、ハンバーグの材料と…卵焼きかな。
後は…唐揚げかな?定番は。私は結構煮物も好きだけど。量をちょっとにして小さめに具材を切れば他の物を作ってる間に煮込めちゃうかも。


あれこれ考えながら食材を買って、家路を急ぐ。


…急がなきゃ。

お泊まりの支度もしなきゃいけないし。


お弁当をなんて言ったけど、別に料理が特別得意なわけじゃない。まあ…人並みの知識があるくらいなもんで、手際の悪さは否めない。結局全て終わってから時計を見たら8時45分になっていた。


『九時位かな』


ヤバい…そろそろ連絡が来るかも。
宮本さんちでお借りするのも申し訳ないって、先にシャワー浴びちゃったのが時間のロスだったかな…

そんなことを考えながらスマホを見てみたら


「えっ?!」


着信5件


全て宮本さんで。
一番早い着信は…8時過ぎ。
その後、すぐに一度メッセージが届いていた。


『家に着いた。いつでも迎えに行けるから、連絡して』


メッセージはそれだけだけど…
ど、どうしよう…お弁当作るのに夢中で全然出られなかった。


慌てて支度をしながら電話をかける。


『…もしもし。』
「あ…あの…すみません…電話…」
『終わった?』
「は…い…」
『んじゃ、迎えに行きます。』


淡々とした声でそう言ったかと思うと、ぷつんと電話が切れた。


…どうしよう。
もしかして、少し怒ってるかな。電話に出ないで待たせて…


ピンポーン。
インターホンが鳴り、モニターに人が映る。

思わず目を見開いた。


……宮本さん、だ。
今、スマホを切ったばかりでもう来た…という事は、もうそこに来てくれていた…って事…だよね。


急いで施錠を解いてドアを勢いよく開けた。


「うわ…!そんなに勢いよく開けたらびっくりすんじゃん。」


そんな、大きめの二重をパチパチさせて“びっくり”って…それはこっちの台詞です。



「だ、だって…お仕事…」



戸惑う私を、口元を腕で隠して笑う宮本さん。


「俺ね?今、作田隆二って言う、それは、それは優秀な人と仕事してるんだよね。あの人のやる気が出りゃ、ミーティングもすぐ終わるからさ。
それから…真斗がね。最後のミーティング、15分位早めてくれたから。
早く終わったんだったら、アパートの前まで来ちゃえば早いかって思って。」


じゃあ…お仕事早く終わってここに来てくれたのに、私が着信に出なくて、車で待ちぼうけになってたって事…?


「あ、あの…すみません。着信に気が付かなくて。」


部屋にとりあえずあがって貰ってすぐに、改めて謝った私の頭を宮本さんが「いーえ」と言いながらポンと撫でた。


「おっ!美味そう。」


あ…そっか。なるべく冷ましてから蓋をしようと思ってそのままにしてあったんだ。キッチンに立ってマジマジと見ている宮本さんの横に私も並んだ。


「…腹減った。」
「ちょっとつまみ食いしますか?」
「いや、折角綺麗に入れてあるから、今崩すのは忍びない。うちに帰ってからゆっくり食わせて頂きます。」


…褒めてくれた。


思わず顔がにやける。
だらしなく顔を緩々とさせたまま、蓋を閉めたら、横から片頬をつままれた。


「…大福。」
「残念ながら大福はお弁当に入ってません。」
「そ?」


そのまま、宮本さんの顔が近づいて来て、唇を挟み込む様にキスをされる。


目線が至近距離でぶつかり、微笑む宮本さん。
その放つ色気に少しだけ息を飲んだら、また同じ様に優しいキスが降ってきた。

頬をつまんでいたはずの指はスライドして髪をとかしていく。
おでこどうしがくっついて、そこから宮本さんの温もりを感じる。


「……行こっか。」


甘く囁く声。
その吐息が、唇にかかり、そこも温める。


キュウッと胸が締め付けられ、苦しくなった。


…私、大丈夫かな。
ちゃんと、離れられるのかな…2日後に。




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