Limited-lover
さっきの、一連の甘い雰囲気のくだりは何だったんだ……
なんて、項垂れている私には気付いていないのか、いつも通りの宮本さん。
「じゃあ、入ってくるけど、くれぐれもさっき言った事忘れないでよ。」
「さっき…」
「何、もう忘れちゃったわけ?」
両頬をムニッとつままれた。
「ハンバーグ、全部食っていいんでしょ?と言うか、弁当全部?
だから、ビールは先に飲んで良いけど、くれぐれも弁当には手を出すなよって話。」
「は、はひ…」
「…本当によく伸びるよね、ほっぺた。」
「ふふうへふ」
「何言ってんのかわかんないから却下。」
そのまま「じゃあ、ちょっと行って来ます」と洗面所へと消えて行く。
やっぱりその指の感触が残る頬。掌で思わず抑えた。
…何だかなあ。
色気は感じて貰えず抱き枕止まり。
けれど、“ゆるネコびより”が好きなのを覚えていてくれたり、お弁当食べたいって言ってくれたり、抱きしめてくれたり。
キスも、丁寧に優しくしてくれる。
…やっぱり、一週間という期間付きのお付き合いだから、優しくそして、構ってくれているのかな、宮本さんは。
だから、一線は越えない。
沢山恋愛をしてきた宮本さんの事だから。
一線を越えてしまったら、面倒くさいって思っているのかもしれない。
特に、サクラさんの後輩である私は。
「そりゃ、年下ではあるけどさ。しかも、あんな子供じみた感じの告白したけど。でも…私、これでも、もう25歳なんだけどな…」
ポツリと呟いた言葉に、どこかでズキンと痛みが伴った。
だって、理解はしてる。
一週間後には恋人じゃなくなって、今まで通り、大して関係の無い仲に戻るんだって。
だったらこんな風に宙ぶらりんにされるより、私は……
ふうとそこで深く溜息をついた。
「…着替えよ。」
着替えを終えてお弁当を袋から出す。
『全部食って良いんでしょ?』
目頭が熱くなって思わず、目元を少し拭った。
……やめよう。色々考えるのは。
どうせあれこれ考えていたって、一週間後には別れるんだから。
宮本さんがお風呂から出て来たときに私が暗い顔をしていたら、それこそ宮本さんにとっては面倒くさいよ。
大切な一週間をここで終わらせるのだけは嫌だから。
ちゃんと…笑顔でいなきゃ。