Limited-lover





「…頬、冷やした方が良いと思います。」
「ああ……うん。ありがとう。」


私からハンカチを受け取った宮本さんはまたニコッと笑う。


…こんなに至近距離で見たのは、あの声をかけてくれた時以来だけど。
整った幼顔もさることながら、笑顔が本当に柔らかくてふわっとしてて、だけどかっこいい。


『三日しか付き合ってないのに』

三日だって、宮本さんの彼女になれたなんて、私からしてみたら羨ましい話しだよ。
原因はわからないけれど、結局別れちゃったわけだけど…


………………待って。



別れたって言うのは本当につい、5分前の話。

多分、まさに今は、一番ホットでナウな情報(言い方が古い)を私だけが握っているって事だよね…


「………。」


頭を過ぎった一つのよからぬ考えに、ゴクリと思わず生唾を飲んだ。



……で、でも、宮本さんの事だから。
明日には……いや、一時間後にはもう新しい彼女が出来ているかもしれない。


だ、だったら……これは千載一遇のチャンスってヤツ…なのでは。


膝に置いていた両手をギュッと握った。


そうだよ…言うはタダ。
言わなければ何も始まらない。


別に、お互い、いい大人なんだから、断られたら「ですよねー!」って笑い飛ばして爽やかに「お騒がせしました!」って終わりにすればいい話。

よ、よし…


「あの!」

意を決して宮本さんの方へ身体を向ける。


「さ、さっき別れた…という事は今は…彼女はいない…ですよね。」
「あーうん…まあ、そうなるね。」
「だ、だったら… す、好きです!付き合ってください! 」


ああ…何か、実際に言ってみたら弱みにつけ込んでいる感じが若干…
わ、私…嫌なヤツ…だな、これ。


「………。」


案の定、少し目を見開き宮本さんは無言。

きっと呆れているに違いない。
そして、厄介なヤツに目撃されたと面倒くさがっているに違いない。


でも…私としては、言ってしまったものは後には退けない。


「 わ、私…本当に宮本さんが好きで…だ、だから…その…
期限付きでも…一週間とか!」


…からと言って、言って良いことと悪い事があるでしょ。


何よ、期限付きって。

“今がお買い得、お試し期間!”みたいなさ……


案の定、ものすごい無表情な宮本さん。


「………。」


宮本さんはきっと今、如何に早く私とサヨナラするかを考えているに違いない。
だったら、ここは、当初思い描いていた様に爽やかに「付き合えなくてとうぜんですよね」って……


気持ちを切り替え笑顔を作るため、視線を逸らし、一度、俯いた。


よ、よし……


「…………うん。いいよ、別に。付き合おっか。」
「……え?」


確かに、聞こえた言葉に恐る恐る顔を上げた。

再び見た宮本さんは、やっぱり笑顔ではないけれど、飄々とした感じで特に嫌そうな感じは見て取れない。


「んじゃ…一週間?」


はい…じゃあ、一週間……


「…ってえええっ!!」

「うるさっ!」

「み、宮本さん?!だ、大丈夫ですか?!“付き合う"ってどういう事か知ってます?あ、私、すぐに意味、ググります!」

「や……秋川さんの今の態度を見たら、俺の方がそこは分かってる感じするけど…って、何?俺からかわれた?もしかして。
ああ、あんな現場見せられたから、あてつけ?」

「い、いやいや、滅相も無い!!」


手をブンブン横に振りながら、首も取れそうな程横に振る。


「…首、取れそうだけど。そんなに振ってると」


指先がやけに丸い、けれど大きな掌に頬を覆われた。


「う……っ」


さっきよりも間近で真正面でみるその顔。瞳が、川の水面が陽の光に反射しているかの様に、キラキラと煌めいていて。


「……ゆでだこ。つか、頬、温かっ。」


眉を少し下げて笑うその顔がもうたまらなく柔らかくて優しくて……


この距離だと、長い間直視出来ません、宮本さん。


鼓動がフル稼働する中、一生懸命目線を外した。


……凄いな、さっきの女の人。
よく、この顔をひっぱたいたな…。


「あの…。そ、そんなに簡単に付き合うっていいんですか?」
「だって、『付き合ってくれ』って言うから。俺、今、彼女居ないでしょ?なんせ。」


折角反らした視界に割り込んで来る、何故かすっごいニコニコと楽しそう。


「ねえ、ちゃんと目、合わせてよ。」
「む、無理…」
「何で?」


目線に割り込んで来る彼に気持ちがいっぱいいっぱいで、思わずギュって瞼を閉じた。


「そんなんだと、キスするけど…って、そっか。
まあ、彼女だし、キスすんのは構わないのか。」


え……?


目を開けようとした瞬間唇に柔らかい感触を味わう。


私……キス、した?


宮本さんと。






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