Limited-lover
.



カツンとヒールの音が一度部屋の中に響き、「じゃあね」という言葉の後、ドアがガチャンと閉まっった途端、目の前がぼやけて、ポタンとそのまま涙が落ちた。


……なんでよ。
何でサクラさんが泣くの?
だって、好きなんでしょ?宮本さんが。
それなのにどうして…


『軽蔑する』


私が宮本さんの事を諦めちゃいけないみたいに言うの?


『私は赤の他人でしょ?』


…そうだけど、違います。
サクラさんは、私の憧れで、大好きな人だから。
だから、私は無視することなんて出来なくて……


『電源が切れていたから…』


何となくサクラさんの言葉を思い起こして、スマホ手に取った。


…充電、しようかな。


充電器を差し込んで電源を入れた。


『麻衣、メッセージしちゃってごめんね!明日って、少し時間ある?』


サクラさんからのメッセージが夜に入っていて…数件の着信は全て宮本さんから。


……あんな風に怒鳴って逃げたのに。


スマホの画面がぼやけ、親指にポタンと涙が落ちた。


“本当に、それだけしか宮本さんから伝わってこなかった?”


……そんな事ない。
だって、少なくともこの一週間、私がリミットやサクラさんの事を気にする以外は、本当に幸せだった。

それは、宮本さんが私を大切に扱ってくれていたから。
私を…ちゃんと"彼女”として受け入れてくれていたから。


ズッと鼻を啜り、涙を拭いた。


“麻衣が宮本さんを諦める事と私が関係ある?”


関係は…ある。
けれど、それと話さないで逃げるのとは違う……。だって、私は…宮本さんが嫌いになったわけじゃない。別れたくてあんな風に怒鳴ったわけでもない。


だったら、ちゃんともう一度、宮本さんと会わないと。
そして、最後にきちんと話をしなきゃ。


一週間、彼女で居させてくれた感謝も、今、一週間前より好きだって言う、この気持ちも。全部伝えてから終わりにしないと。








……とは決意したものの。


宮本さんに電話してみても繋がらず



『昨日はすみませんでした。話をしたいので、お時間をいただけませんか?』


そう メッセージを送っても全く既読にならず。



どうしよう…もう、夕方になっちゃった。
もしかしたら、『もういいか』と思われてしまったのかも。だって…昨日あれだけ連絡したのに一切無視だったんだから。その位思われても仕方がない。

そ、そうだ…直接おうちに尋ねてみるとか…どうだろう。そんな家まで押しかけていく女、迷惑…かな。


「………。」


………いや。
私、まだ彼女だから。


強気な言葉で自分を奮い立たせ家を出た。

外は茜色から群青色、そして暗闇へとグラデーションになり、夜へと変化を始めている。ほう…と吐いた息が白く形づくってそんな空へと消えて行った。


『寒っ!』


いつもそう言って私の手を握りポケットに突っ込んでいた宮本さん。指先が驚く程冷たくて、でも繋ぐと私の温度でそれが温かくなっていく。

それが嬉しくて…私の気持ちもぽかぽかと温まる。
「大福」って優しく頬をつまんでくれる時の笑顔がいたずらっ子みたいに可愛くて…好きだった。

それから、顔を寄せて唇を重ねてくれる。その甘さも、気持ちを沢山満たしてくれた。

私を包み込んでくれる腕。
ギュッと閉じ込めるように、けれどそれは温かくて幸せで…心地よくて。



信号が青になると同時に駅までの道を走り出した。


…やっぱりちゃんと伝えたい。


嬉しかったんだって。
宮本さんと居られて、本当に…幸せだったんだって。
ありがとう…って。


そうしたら、私はちゃんと前に進む。






< 31 / 49 >

この作品をシェア

pagetop