Limited-lover





期待と緊張を胸に、宮本さんのマンションへ着いたのは、すっかり夜になってからだった。


……けれど。

もう一度連絡を入れてからインターホンを押そうと鞄を開けてみたら……スマホが無い。そういえば、充電器に繋ぎっぱなしで出て来てしまったかも。
家を出る時に鞄に入れた記憶も…無い…。つまり、家に忘れてきたと言う事だ。

何をやっているの……私は。

仕方がないから、そのままインターホンを押したものの、待てど暮らせど、宮本さんが出てくる気配は無い。

取りに行くしかない、か…。


最寄駅へと引き返し、時計を確認したら、夜の7時半を過ぎ、8時に近づいていた。



一旦家に帰ってもう一度宮本さんのマンションに行くと、どう考えても9時は過ぎる。その位の時間になれば家にいるかな…それとも、ただ単に、私だから出ないだけ?

……いや。
そんなことで弱気になってどうする。


“だんだん弱気になってるけど、大丈夫なわけ?”


そうだよ……
告白したときの勢いで、頑張らないと。


一度諦めそうになった気持ちを、そう今一度奮い立たせ、家路を走る。

ハアハアと息が切れて、苦しい。
喉もカラカラする。

それでも、足は勝手に前に進む。

一分、一秒でも早く、宮本さんに会う為に。


アパートに着く頃には、頬は上気し、少し汗ばんでいた。


早く…しなきゃ。


フラフラと階段を上っていった先。そこで一度、足がピタリと止まった。


目線は真っ直ぐに自分の部屋の前に定まる。

そこには、ドアにもたれ、スマホを何やらいじっている……宮本…さん。


「……お帰り。何、ジョギング?スマホも持たないで。
ずーっと中で『ちょっと電話なんだけど』って怒ってるよ、スマホが。」


未だに息が整わない私を見て、スマホをポケットに突っ込むと、背中をドアから離した。


それから、私の前に立ち左頬をつまむ。


ヒンヤリとしたその指先が上気した頬の温度を少しさげてくれた。


けれど


「…ほっぺたすごい真っ赤じゃん。イチゴ大福になってるけど。」


気持ちは逆に熱くなり、込み上げて来た涙がポタポタと宮本さんの指を濡らし始める。


「み、宮本…さんちに行ったけど…い、居なくて…」
「うん、そりゃここに来ちゃってんだから居ないよね。と言うか、その前は仕事で会社に居たし。」


よく見たら、スーツ姿にコートの宮本さん。


「誰かさんが怒って帰っちゃった後、課長から連絡貰って、急遽。」


お、怒って……
そ、そうだ、ちゃんと謝って話をしないと。


「あ、あの…「んっくしゅ!」


突然、宮本さんがくしゃみをする。

もしかして、結構長い時間待っててくれたんじゃ…


「…と、とりあえず中に入りませんか?」


少し肩を震わせながら鼻をスンと啜った宮本さんが、そのまま私をジッと見た。


「…いいの?入って。」
「え?は、はい…」
「そっか。…うん、じゃあ寒いから入らせて貰います。」


そう言うと、今度は「ほら、寒いから早く!」と急かし出す。


ど、どうしたんだろう…。



.



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