Limited-lover
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翌日
「観覧車に乗りたい」
そう言った麻衣を連れて来た遊園地。
観覧車に乗る頃には、良い具合に当たりは暗くなっていて、比較的冬の澄んだ空気により、遠くの方まで夜景が見える。
待ち合わせしたエントランスで受付の子にサクラの悪口言われて、落ち込んでいたのか、あまり元気が無かった麻衣だったけれど、それを目にした途端、目を輝かせ窓に張り付いた。
「わあ……」
…鼻の頭、潰れちゃってるけど。
あまりにも熱心に見てるのが可愛くて、思わずスマホを動かした。
むうっと口を尖らせて眉間に皺を寄せ不服顔。
「…どうせなら、二人の画像がいい。」
言葉の羅列だけ聞いたら、大した事の無いその台詞。
でも…麻衣からそう言った事が俺には大きな事で。
付き合い始めた6日前だったら、絶対そんなこと言わなかったと思うんだよ。
いや。
言ったとしても、それは意味が違う。
6日前だったら、“気になってる人”“遠くでただ見ていた人”に一緒に写真をと言う意味だったと思うけれど、今はちゃんと、この人の中で俺の存在が身近になったって事。
今日、なるべく早く、話をしたいかも…。
再び夜景に目を移した麻衣の隣に移動して、その身体を包み込む。
スマホで写真撮って、それから二人でまた夜景を見たけど。
「……。」
今…言う?
家に帰ってからゆっくりって思ったけどさ。
別にこれ、もういいよね…
けれど、「あのさ」と言いかけた言葉は、運悪く観覧車の終わりと重なる。
まあ…いっか。
とりあえず飯食って、さっさと家に連れて帰ろう。
そう思っていたのにね。
こういう時に限って、そう事はうまくいかないもんで。
車を走らせ来たはずのここで、何故か、元カノのあの子と遭遇。
そんなドラマみたいな出来すぎの展開自体を恨んだけど。
麻衣に掴みかからんばかりなその子の態度に覚えた危機感。
… ここで誤魔化して、今後も麻衣に何かされるのは絶対ダメだよね。
とにかく、こうなったのも俺の脇の甘さってやつだから何とかしないと。
麻衣が萎縮して、この状況にも俺の態度にも恐がるのは何となく予想の範囲内だった。
麻衣の性格からして、ああいう時、怒りにベクトルは行かない。どちらかと言うと悲しくなったり、恐がったりするって、何となく思っていたから。
でも、そこはいくらでもフォロー出来る。
今日、ちゃんと話をするつもりでいるんだし、そしたら今日を過ぎても麻衣は俺の彼女でいる事が決定されるわけだし…
そういうつもりはないけれど、どこかでそうタカをくくってたのかもしれない。
「一緒に居たくない!」
まさか、あんな風に食ってかかってくるとは予想していなかった。
めいっぱい涙を溜めた瞳は、暗闇で綺麗に光る。唇を震わせて、眉間に皺を寄せて。俺が何を言っても、怯まない。
ずっと、俺に振り回されて来たはずの麻衣が…意志と嫌悪感をあらわにした。
「私に優しいのは、彼女だからですか?それともサクラさんの後輩だからですか?」
……や、優しい?俺が?
しかも、何でサクラがここで出てくんの?
とにかく、「家に帰って話を」とは言ったけど、そこで俺も少し落胆を覚えたんだと思う。
走り去っていく麻衣をもう一度捕まえる事が出来なかった。
…もしかして。
この6日間、俺は『彼女だから優しくしてた』って思われてたってこと?
それか、『サクラの後輩だから気を遣われてる』って?
確かに、サクラとは付き合いが長いけど。それと麻衣と付き合おうと思ったのとはまた別の話だったのに。
不意に受付嬢と俺のやり取りを思い出す。
もしかして…さっき俺があからさまにサクラを庇ったから?
そういうこと?
いや、あれはさ…どっちかって言うと、麻衣が泣きそうな顔してるから俺も言いたくなったわけで。
まあ、麻衣の事がなくても、親しい人をあれだけ言われたらムカつくから嫌味の一つでも言ったかもしれないけどね?
けれど、それは別に、例えば真斗でも作田さんでも同じ事したよ?
「……。」
力が抜けて、海沿いの手すりに寄りかかり、思わず深く溜息を吐き出した。
……いや、もう、ここであれこれ考えてたってあの人に伝わるわけじゃないし。不満は麻衣自身にぶちまけなきゃ意味がない。
スマホを取りだし、麻衣に連絡をしてみたけれど、当然電話に出るわけも無く。
じゃあ…家に直接行ってみるしかないか。
コートのポケットに突っ込んだ途端に、震えだしたスマホ。
急いで取り出し、更に力が抜ける。
会社…呼び出しだね、これ。
「…もしもし。」
「健太!悪い!ちょっと会社に戻れるか?!」
すごい切羽詰まってる課長の声。
…一応サラリーマンですからね、俺も。
一つ小さく息を吐き、頭を切り換えた。
「あ~…もしかして、M社とのやり取りですか?」
『そう、それだよ!「どうしてもお前と一度話をしてから進めたい」って…』
今M社とやっている案件て、今回のプロジェクトは小規模だけど、M社自体はイベントを沢山やる所だから。
意向を汲めるだけ汲まないと。今後に影響するもんな…
「とりあえず、M社の担当に連絡入れてみるんで。それから、戻ります。」
『恩に着る、健太!』
課長との連絡を終えて、もう麻衣へのスマホにかけてみる。
…やっぱり出ない。
でも、何度かかけていたら麻衣の事だから出てくれるのかな。
『ハンバーグどころか、全部食べても』
麻衣は…このまま“ハイ、サヨナラ”なんて事には絶対ならないはず…と言うか、俺がさせない。
いくら、俺の態度が『彼女だから優しい』とか『サクラの後輩だから気を遣ってる』って思っていたとしたって
『どうせ撮るなら二人がいい』
告白してくれた4日前より今の方が、ちゃんと麻衣の中で俺の存在が近くなっているはずだから。だったら、ちゃんと「違う」と伝えりゃいい話だから。
明日が最終日だけど、とにかく、仕事が終わったら家に行ってみるしかないな。
車にエンジンをかけ、発進させる。
誰も乗っていない助手席に、麻衣の笑顔を思い描いたら、まだ寒いはずの車の中がほんの少し温かさを増した気がした。
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翌日
「観覧車に乗りたい」
そう言った麻衣を連れて来た遊園地。
観覧車に乗る頃には、良い具合に当たりは暗くなっていて、比較的冬の澄んだ空気により、遠くの方まで夜景が見える。
待ち合わせしたエントランスで受付の子にサクラの悪口言われて、落ち込んでいたのか、あまり元気が無かった麻衣だったけれど、それを目にした途端、目を輝かせ窓に張り付いた。
「わあ……」
…鼻の頭、潰れちゃってるけど。
あまりにも熱心に見てるのが可愛くて、思わずスマホを動かした。
むうっと口を尖らせて眉間に皺を寄せ不服顔。
「…どうせなら、二人の画像がいい。」
言葉の羅列だけ聞いたら、大した事の無いその台詞。
でも…麻衣からそう言った事が俺には大きな事で。
付き合い始めた6日前だったら、絶対そんなこと言わなかったと思うんだよ。
いや。
言ったとしても、それは意味が違う。
6日前だったら、“気になってる人”“遠くでただ見ていた人”に一緒に写真をと言う意味だったと思うけれど、今はちゃんと、この人の中で俺の存在が身近になったって事。
今日、なるべく早く、話をしたいかも…。
再び夜景に目を移した麻衣の隣に移動して、その身体を包み込む。
スマホで写真撮って、それから二人でまた夜景を見たけど。
「……。」
今…言う?
家に帰ってからゆっくりって思ったけどさ。
別にこれ、もういいよね…
けれど、「あのさ」と言いかけた言葉は、運悪く観覧車の終わりと重なる。
まあ…いっか。
とりあえず飯食って、さっさと家に連れて帰ろう。
そう思っていたのにね。
こういう時に限って、そう事はうまくいかないもんで。
車を走らせ来たはずのここで、何故か、元カノのあの子と遭遇。
そんなドラマみたいな出来すぎの展開自体を恨んだけど。
麻衣に掴みかからんばかりなその子の態度に覚えた危機感。
… ここで誤魔化して、今後も麻衣に何かされるのは絶対ダメだよね。
とにかく、こうなったのも俺の脇の甘さってやつだから何とかしないと。
麻衣が萎縮して、この状況にも俺の態度にも恐がるのは何となく予想の範囲内だった。
麻衣の性格からして、ああいう時、怒りにベクトルは行かない。どちらかと言うと悲しくなったり、恐がったりするって、何となく思っていたから。
でも、そこはいくらでもフォロー出来る。
今日、ちゃんと話をするつもりでいるんだし、そしたら今日を過ぎても麻衣は俺の彼女でいる事が決定されるわけだし…
そういうつもりはないけれど、どこかでそうタカをくくってたのかもしれない。
「一緒に居たくない!」
まさか、あんな風に食ってかかってくるとは予想していなかった。
めいっぱい涙を溜めた瞳は、暗闇で綺麗に光る。唇を震わせて、眉間に皺を寄せて。俺が何を言っても、怯まない。
ずっと、俺に振り回されて来たはずの麻衣が…意志と嫌悪感をあらわにした。
「私に優しいのは、彼女だからですか?それともサクラさんの後輩だからですか?」
……や、優しい?俺が?
しかも、何でサクラがここで出てくんの?
とにかく、「家に帰って話を」とは言ったけど、そこで俺も少し落胆を覚えたんだと思う。
走り去っていく麻衣をもう一度捕まえる事が出来なかった。
…もしかして。
この6日間、俺は『彼女だから優しくしてた』って思われてたってこと?
それか、『サクラの後輩だから気を遣われてる』って?
確かに、サクラとは付き合いが長いけど。それと麻衣と付き合おうと思ったのとはまた別の話だったのに。
不意に受付嬢と俺のやり取りを思い出す。
もしかして…さっき俺があからさまにサクラを庇ったから?
そういうこと?
いや、あれはさ…どっちかって言うと、麻衣が泣きそうな顔してるから俺も言いたくなったわけで。
まあ、麻衣の事がなくても、親しい人をあれだけ言われたらムカつくから嫌味の一つでも言ったかもしれないけどね?
けれど、それは別に、例えば真斗でも作田さんでも同じ事したよ?
「……。」
力が抜けて、海沿いの手すりに寄りかかり、思わず深く溜息を吐き出した。
……いや、もう、ここであれこれ考えてたってあの人に伝わるわけじゃないし。不満は麻衣自身にぶちまけなきゃ意味がない。
スマホを取りだし、麻衣に連絡をしてみたけれど、当然電話に出るわけも無く。
じゃあ…家に直接行ってみるしかないか。
コートのポケットに突っ込んだ途端に、震えだしたスマホ。
急いで取り出し、更に力が抜ける。
会社…呼び出しだね、これ。
「…もしもし。」
「健太!悪い!ちょっと会社に戻れるか?!」
すごい切羽詰まってる課長の声。
…一応サラリーマンですからね、俺も。
一つ小さく息を吐き、頭を切り換えた。
「あ~…もしかして、M社とのやり取りですか?」
『そう、それだよ!「どうしてもお前と一度話をしてから進めたい」って…』
今M社とやっている案件て、今回のプロジェクトは小規模だけど、M社自体はイベントを沢山やる所だから。
意向を汲めるだけ汲まないと。今後に影響するもんな…
「とりあえず、M社の担当に連絡入れてみるんで。それから、戻ります。」
『恩に着る、健太!』
課長との連絡を終えて、もう麻衣へのスマホにかけてみる。
…やっぱり出ない。
でも、何度かかけていたら麻衣の事だから出てくれるのかな。
『ハンバーグどころか、全部食べても』
麻衣は…このまま“ハイ、サヨナラ”なんて事には絶対ならないはず…と言うか、俺がさせない。
いくら、俺の態度が『彼女だから優しい』とか『サクラの後輩だから気を遣ってる』って思っていたとしたって
『どうせ撮るなら二人がいい』
告白してくれた4日前より今の方が、ちゃんと麻衣の中で俺の存在が近くなっているはずだから。だったら、ちゃんと「違う」と伝えりゃいい話だから。
明日が最終日だけど、とにかく、仕事が終わったら家に行ってみるしかないな。
車にエンジンをかけ、発進させる。
誰も乗っていない助手席に、麻衣の笑顔を思い描いたら、まだ寒いはずの車の中がほんの少し温かさを増した気がした。
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