運命という名の足枷(仮)
農園での仕事は、基本野良仕事。

煙草農園で、かなりの利益をもたらすと、奴隷商人スメイや、奴隷管理のギャレガー達が笑っていた。

しかし、ヒルダは労働をしながら思う。

足枷が無い方が、ずっと効率が良く、収穫量が増え、利益が上がるだろう、と。

農園で10日程過ごした頃。


ある夜、奴隷達の部屋で、穴の開いた天井を見ながら、徒樹がヒルダに言った。

「なあ、奴隷市場って知ってっか」

ヒルダは頷く。傍に旭宇も寄ってきた。

「奴隷市場って…、最近何人か おらんと思っとったばってん、市場に出されたと?」

旭宇は農園の太陽の下、持ち前の能天気さを取り戻していた。声色も普段通りで明るい。

「そうらしいよ。見目の良い子を、お貴族様とか、富裕層が買うんだと」

徒樹の言葉に、鳥肌が立ったヒルダ。

「うわぁ…気持ち悪っ。僕達をペットか、使用人か、玩具みたいに扱うんだろ?」

ヒルダの言葉に、徒樹はどこか遠くへ視線を飛ばしていた。

「けどよぉ…、良識のある奴に買われれば、それなりの教育を望めるよなぁ…」

「何ば言いよっと、徒樹。良識ある奴なら、奴隷なんか買わんばい」

旭宇の正論に、ヒルダは力が抜けてごろりと仰向けになる。

天井の穴から、控えめに輝く星が見える。

(本が読みたいなあ…)

目蓋を伏せ、ふと思うヒルダ。

ヒルダは読書家だ。

4歳の頃から独学で読み書きを学んできた。

今のヒルダは7歳。奴隷として一年程過ごしてきた。

ヒルダは奴隷商人や管理人達に読み書きが出来ることを遠回しではアピールしてきた。

そして気付いてもらい、読み書きが出来る者を必要とする仕事を与えられる事もあった。

管理人のギャレガーが全く無学だという事を知り、慇懃無礼な態度で接するのがヒルダのささやかな楽しみであった。

愚かな者は、自分が愚かだという事に気が付かない。

それどころか、自分は他者より優れているとさえ考えている。

馬鹿だなぁ、とヒルダは思う。

その考えが口から出そうになれば、百倍程丁寧に、遠回しに、優しく柔らかに変化させて、上品に告げる。

そして、そんなヒルダに煽(おだ)てられ、更に付け上がる愚者に、ヒルダはたまらない優越感と同情心を抱く。

我ながら嫌な性格だ、と自覚しているヒルダ。

しかし、改める気は全く無い。

ヒルダのモットーは「美しく」だ。

嫌なものだからと言って、「悪」とは言いきれないのだ。

「悪」=「汚い」とは言いきれない。

「悪」が魅力的ひ思える事も珍しくは無い。

そして、「魅力的」なものは大抵美しい。
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