運命という名の足枷(仮)
─帝都にて─
美しい朱塗りの中華風の屋敷は、レヌンツィオ伯爵邸。
門から玄関までの道は、青々とした竹林が立派だ。
同じようなレンガ造りの建物が建ち並ぶ街から少し離れた場所に建てられたその屋敷は、強烈な異国情緒を放っている。
「伯爵」
静かな声と共に、音もなく 一人の女が現れる。
名を、ヨランド・ディノアール。
珍しい青銀髪の、男装の麗人だ。
緑の服は、──血まみれ。
「やあ、ご苦労様、ヨランドちゃん。
あらま、血まみれ」
能天気な声の男、伯爵、ジョフレ・ルーペルト・レヌンツィオが、ニコニコと笑い、言葉を返す。
気の抜けた笑み、何処を見ているのか分からない 茶色の瞳。
まるで──抜け殻。
「随分と抵抗されたもので…。ムカついたので、苦しむように致しました」
血まみれのナイフを見せびらかすように、ペチペチと自分の掌(てのひら)に軽く叩き付けるヨランド。
白い掌も、血で赤く汚れる。
「まー怖いこと。ヨランドちゃ…、いやあ、“デボラ”ちゃんかなァ?」
言いながら、懐から取り出したハンカチで、優しくヨランドの顔に付いた返り血を拭うジョフレ。
「ま、どっちでもいっか。
──それにしても、あの老人に こ~んなに血があったとは、びっくりだよぉ」
子供の様に、無邪気な口調。
ヨランドは、自身の美しい顔を、蔑みに似た笑みの形に歪ませる。
「着替えてきます」
ジョフレは、にこりと微笑み、頷いた。