運命という名の足枷(仮)
3
「ーーなぁ」
カァンッ。
つるはしが鉱山を掘る度に、音が響く。
「…はぁっ…、な…に」
初めての労働に、すぐに疲れたヒルダは肩で息をしながら、声をかけた徒樹に言葉を返す。
カァンッ。
徒樹の振り下ろしたつるはしが岩を砕く。
「人間を売る奴と、売られる奴ってさ」
徒樹の言葉に、ヒルダは「なに?」と、苦しそうに声を絞り出した。
カーン。
ヒルダが振り下ろしたつるはしは岩に引っ掛かった。
抜けなくなったそれを、横から徒樹が引き抜きながら、言葉を続けた。
「どっちがクズい?」
ヒルダは徒樹の問いに、大袈裟に顔をしかめた。
そもそもヒルダは『売られる奴』側だ。
『売る奴』の気持ちなど理解出来ないし、理解出来るのは、奴隷というものは、奴隷制が認められているこの国の商業のひとつ、という事と、単に金に困る者が最終手段として身内を売る、という事だ。
そうなると、『売る奴』は単に切羽詰まっており、『売られる奴』は不運なだけで、“クズ”かどうかと問われると、何と答えればよいか、難しい。
「やっぱ、売られる奴、だと俺は思うんだよなー」
自分の質問に、答えが決まっていたのか、徒樹が自ら答えた。
手を動かしながら、徒樹は続ける。
「だって、売られる奴って無力で、人間扱いされないじゃん?」
ヒルダは徒樹の言葉に、つまらなそうに頷く。
人間は、人間に、人間らしく扱われるのが一番だろう。
人間は、家畜を人間扱いしないのが一番だろう。
自分がいずれ食べるものと、会話などしたくもない。
「僕達は、“食われない家畜”だろう?」
つるはしを力いっぱい握りしめ、ヒルダは言う。
「そう。一生、“人間様”の為に労働を強いられる、家畜。それ以上はないけど、それ以下ではある」
岩の隙間に引っ掛かったつるはしを、徒樹は「ガンっ」と蹴りとばす。
がらんがらんと、岩の欠片が足元に散らばった。