運命という名の足枷(仮)


「ーーなぁ」

カァンッ。

つるはしが鉱山を掘る度に、音が響く。

「…はぁっ…、な…に」

初めての労働に、すぐに疲れたヒルダは肩で息をしながら、声をかけた徒樹に言葉を返す。

カァンッ。

徒樹の振り下ろしたつるはしが岩を砕く。

「人間を売る奴と、売られる奴ってさ」

徒樹の言葉に、ヒルダは「なに?」と、苦しそうに声を絞り出した。

カーン。

ヒルダが振り下ろしたつるはしは岩に引っ掛かった。

抜けなくなったそれを、横から徒樹が引き抜きながら、言葉を続けた。

「どっちがクズい?」

ヒルダは徒樹の問いに、大袈裟に顔をしかめた。

そもそもヒルダは『売られる奴』側だ。

『売る奴』の気持ちなど理解出来ないし、理解出来るのは、奴隷というものは、奴隷制が認められているこの国の商業のひとつ、という事と、単に金に困る者が最終手段として身内を売る、という事だ。

そうなると、『売る奴』は単に切羽詰まっており、『売られる奴』は不運なだけで、“クズ”かどうかと問われると、何と答えればよいか、難しい。

「やっぱ、売られる奴、だと俺は思うんだよなー」

自分の質問に、答えが決まっていたのか、徒樹が自ら答えた。

手を動かしながら、徒樹は続ける。

「だって、売られる奴って無力で、人間扱いされないじゃん?」

ヒルダは徒樹の言葉に、つまらなそうに頷く。

人間は、人間に、人間らしく扱われるのが一番だろう。

人間は、家畜を人間扱いしないのが一番だろう。

自分がいずれ食べるものと、会話などしたくもない。

「僕達は、“食われない家畜”だろう?」

つるはしを力いっぱい握りしめ、ヒルダは言う。

「そう。一生、“人間様”の為に労働を強いられる、家畜。それ以上はないけど、それ以下ではある」

岩の隙間に引っ掛かったつるはしを、徒樹は「ガンっ」と蹴りとばす。

がらんがらんと、岩の欠片が足元に散らばった。
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