16歳、きみと一生に一度の恋をする。
スマホを見ると遊びの誘いが届いていたけれど、もちろん行く気にはなれないし、家に帰ろうにも今日は一彦さんが休みでいる。
どうしようか考えて、結局俺は学校に向かうことにした。
校舎が騒がしいと思ったら、ちょうど四限目が終わって昼休みになっていた。
教室には行かずに部室棟へと歩き進めると、ソファに座りながらテーブルに向かっている汐里の姿があった。
「……あ、ごめん。勝手に。教室が騒がしくて集中できないからここで……」
汐里は数学の教科書とノートを広げていた。
「なんで謝るんだよ。べつにここは俺だけの場所じゃねーし、汐里が来たい時に来ていいって言ったろ」
いつもなら同じソファに座るところを、今日はあえて距離を取るように部屋の隅に置かれていたパイプ椅子に腰を下ろした。
病院帰りだし、なんとなく足にも違和感があるし、勘づかれたくないと思っていた。
「勉強してんの?」
「中間でちょっとミスが多かったから見直してたの。晃はテストどうだった?」
「名前だけは間違えずに書けてたよ」
「なにそれ」
汐里が小さく笑う。こうして話ができるだけで嬉しいのに、俺はやっぱり触れたくなってしまう。
「汐里は……将来の夢ってある?」
「えー、目指してる職業はとくにないけど、お母さんに楽をさせてあげたいなとは思ってるよ。できたら安定した職に就けたらいいけど」
「……安定、か」
「晃の夢は?」
「俺は……」
考えるように唇を結んだ。