16歳、きみと一生に一度の恋をする。



バイトからの帰り道。晃からメッセージが届いていた。

【帰り大丈夫か?】

その文面だけで、彼の心配そうな顔が目に浮かぶ。

【もう家だから平気】と打つと、【わかった。気をつけて】と、すぐに返事がきた。

私は話が終わってしまったスマホをじっと見つめる。

きみを知る努力なんて必要ないと思っていた。でも今はなにも知らないことに、少しもどかしさを感じている。


「ただいま」

家に帰ると、いつもとは違う空気に気づいた。リビングにはお母さんがいて、テーブルの上にお酒の空き缶が三本置かれている。

「お、お母さん、どうしたの?」

お母さんは普段、お酒を飲まない。

お正月やクリスマス、誕生日といったイベントごとの時だけ軽く口にするだけで、こんな風にひとりで飲むことはなかった。

「ああ、汐里、おかえり。これでね、四本目なのよ」

目は虚ろで、呂律もうまく回っていない。私は飲みかけの缶を止めるようにして手に取った。

「ちょっと飲み過ぎだよ。なにかあったの……?」

「あったってほどじゃないのよ。ただ今日職場の人に今井さんはいい人いないんですかー?って聞かれてね」

「うん」

「知り合いに独身の人がいるから紹介しますよって言われちゃった。きっとシングルマザーで可哀想って思われてたのかもね」

ヒクッと噦り上げながらお母さんは珍しく愚痴を溢していた。

多分、精神的に色々なことが重なっていて、たまたまそういうことを言われてしまったから、過剰に気にしてしまったのかもしれない。

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