16歳、きみと一生に一度の恋をする。
「汐里、俺はさ、お前に世界で一番幸せになってほしいんだよ」
「……っ」
「だから俺のことは忘れていい。今まで色々と苦しませてごめんな」
彼がさらに私を抱く力を強くした。
まだその手を感じていたいのに、ゆっくりと背中から温もりが離れていく。
私は晃の手を握った。
けれど、優しくほどかけて、代わりに、遠くへいってしまう足音だけが響いてくる。
私は振り返らなかった。
だって、振り返ってなんて言えばいいの?
ごめんなんて言わないで。
どこにも行かないで。
離れていかないで。
忘れていいなんて、言わないで。
喉に列を作っている言葉を私は押し込む。
きみの匂いがなくなった。
途端に、力が抜けた。
座りこんで泣くだけの私の隣に、もうきみはいない。