16歳、きみと一生に一度の恋をする。
そして年明けの一月。世間では正月ムードだというのに、俺たちはバタバタとしていた。
「おーい。そろそろ出るよ!」
家の前には一台の軽自動車。開いていたトランクの扉に手をかけながら、一彦さんが母さんに呼び掛けている。
「待って。忘れ物はないかしら?」
「忘れ物があってもいいじゃないか。べつに取りに来れるんだし」
俺はそんなやり取りを車の中から見ていた。
ほとんど母さんの荷物で埋まったトランクが閉まると、予定より三十分遅れてやっと車が出発した。
高速道路に乗り三時間。着いたのは、地元よりも高層ビルが多いひばり市だった。
アパートは病院から徒歩園内にある。玄関口だけではなく、通路も広くなっていて、そこの103号室に俺は今日から暮らすことになる。
部屋の間取りは2LDK。玄関から部屋のいたるところに手すりがつけられていた。
段差はなく、すべての場所がフラットになっていて、バリアフリー完備の部屋だ。