16歳、きみと一生に一度の恋をする。
彼女とはあれ以来、連絡をとっていない。
向こうからもこない。
あの時、俺は遠くにいくとだけ告げた。
行き先も言わなかったし、次に会う約束さえ、しなかった。
車で三時間。会おうと思えば今からだって会える距離にいる。でも、それじゃ意味がない。
ずっと子供ではいられない。
自分がどうなっていくのかもわからない。
そんな不確かなまま、汐里に想いを伝えることはできなかった。
もしかしたら俺たちは在るべき形に戻ったのではないかと考える。
汐里は可愛いし、人の気持ちがわかる優しい子だから、俺以外の目に止まる日はそう遠くないだろう。そしたらきっと、普通の恋愛ができる。
あれこれと悩まずに、苦しめることも泣かせることもない。
だから、俺は忘れていいと言った。
忘れてくれれば、いいなと思った。
けれど、彼女の幸せを願う一方で、その役目が自分だったらどんなにいいだろうかという気持ちは消えていない。
「……諦めが悪いな、俺も」
白い息をはきながら、小さく呟く。すると、母さんに優しく背中を叩かれた。