16歳、きみと一生に一度の恋をする。
「これだったら、貸切と同じだね」
「ふふ、そうね」
お母さんは終始、嬉しそうな顔をしていた。
「ねえ、たまには背中洗ってあげるよ」
私はそう言って、お母さんの背中へと回る。
……あれ、お母さんの背中って、こんなに小さかったっけと思いながら洗ってあげていると、今度はお母さんが私の背中に移動した。
「じゃあ、私も汐里の背中を洗うわ」
「え、いいよ!」
「なに恥ずかしがってるのよ。ほら、じっとしてて」
お母さんは丁寧に私の背中を擦ってくれた。
「こうしていると汐里が赤ちゃんの時だったことを思い出すわ」
「私は赤ちゃんの時って、どんな感じだった?」
「癇癪持ちで、いつも火がついたように泣いてた」
「えーうそ」
「本当よ。だから私も毎日泣きそうになりながら育児してたのよ」
お母さんとこんな話をするのは初めてだった。
「いつもね、誰かお風呂に入れてくれないかな。誰かオムツを取り替えてくれないかな。誰か寝かせてくれないかな。誰か抱っこしてくれないかなって思ってたけど、今思うと、もっとやっておけばよかったって思ったりもするのよ」
「なんで?」
「だって大きくなったら一緒にお風呂も入らないし、一緒トイレに行くこともないし、一緒に眠ることもないし、したいと思っても抱っこもできないでしょう? あっという間なの。子供の成長って」
鏡越しで見えたお母さんの顔は少し切なそうだった。
ああ、そっか。お母さんの背中が小さくなったんじゃなくて、私が大きくなったんだ。