16歳、きみと一生に一度の恋をする。
角を曲がり、お母さんの姿が見えなくなると、張り付いていた笑顔が消える。
こうしてわざわざ通学路から少し外れた道を通るのは何度目だろうか。
足を止めたのは、ぽつんと置かれているポストの前。まるで単調な作業のようにカバンから白い便箋を取り出したあと、少し乱暴に投函した。
季節の変わり目に。お母さんが泣いていた次の日に。ぶつけようのない虚しさが限界まで達した時に、手紙を送ることにしている。
今まで何通出したかは覚えていない。
黒い感情を抱えたまま、学校に到着した。
この高校を選んだ理由は家から徒歩圏内にあるというだけでとくに強く志望していたわけではない。
制服は紺のブレザーとチェックのスカート。首元にあるリボンは鬱陶しくて好きじゃないと思っていたけれど、入学して半年も過ぎれば慣れてくる。
完全に感情のスイッチが切れてしまった私は、誰とも挨拶を交わすことなく、自分のクラスである一年一組に入った。
九月の教室はまだ夏休みの余韻が残っている。
こんがりと日焼けをしている男子は窓際でバカ騒ぎをしていて、スマホを片時も離せない女子は他人のSNSを追いながら、ああだこうだと盛り上がっている。
そんな雰囲気に溶け込むことができない私は無言で自分の席に着いていた。