16歳、きみと一生に一度の恋をする。
「どこ? どこにいるの?」
普段はつんっと取り澄ましている表情が多いのに、今は怖がるように慌てている。
「ふ、はは。ごめん。嘘。ここに来て」
それが可愛いと思いながら、もう一度ソファを指さすと、汐里はふて腐れたように俺から離れた場所に座った。
糸のような黒髪が肩にかかっている。からかったことに怒ってしまったようで、彼女は無言でメープルパンを食べはじめた。
小さく口に運んでいく姿が小動物みたいで、また俺はじっと見すぎてしまう。
「……あんたは食べないの?」
どうやら俺の視線に気づいたらしい。
「あー、買うの忘れた」
すると、汐里は袋からもうひとつのパンを取り出した。
「……じゃ、こっちのパンあげる」
それは、汐里が食べるには大きすぎる焼きそばパンだった。
「お前って、ちっこいのによく食うんだな」
「違う、それは最初から……」
言葉を言いかけた汐里はわかりやすく目を泳がせて、続きのメープルパンを食べていた。
ああ、そうか。
昨日肉まんを半分やったから、そのお礼に買ってきてくれたんだ。
なにもかも無関心みたいに振る舞っていても、人から受けた好意は無視できない。
汐里は、そういう人なのだと思う。
「じゃあ、遠慮なくもらうわ」
そう言って、焼きそばパンを受け取ると、汐里は安心したような顔をした。