16歳、きみと一生に一度の恋をする。
ここが学校だと忘れてしまうくらい時間の進みがゆっくりだ。このまま昼休みが終わらなければいいのにと思ってしまうほどに。
「なあ、手貸して」
「……?」
汐里が首を傾げながら、右の手のひらを見せてきたので、俺は「逆」と言って甲が表になるようにひっくり返した。
汐里の指は折れそうなほど細い。割れ物を扱うように親指に触れると、貝殻みたいな小さな爪に固まった血がついていた。
爪を噛むこと。きっとそれは彼女なりに消化できない気持ちの表れなのだと思う。
俺はテーブルの上にあったマジックをおもむろに取った。
「これ、絆創膏がわり」
言葉と一緒に、汐里の爪に絵を描いた。それは目と口を書いただけの簡単な顔だ。
「……絵、下手だね」
「おい」
「でも、可愛い」
汐里の口角が少しだけ上がる。
こんなのは気休めに過ぎないのかもしれない。でも俺は……。
「もう噛むなよ」
汐里に新しい傷を作ってほしくない。