16歳、きみと一生に一度の恋をする。
学校終わりの放課後。俺は駅前のカラオケ店にいた。もちろん俺の意思ではなく、帰り道にたまたま顔見知りに遭遇して、強制的に誘われただけ。
「晃、飲み物なにがいい? 私取ってきてあげるよー!」
部屋は流行りの曲をひっきりなしに入れて、盛り上がっている。
こういう時だけいい女ぶっている女の名前は知らない。それどころかこの場にいるやつらの年齢も素性もわからない。
中学の時からふらふらと夜の街を出歩くようになって、おのずとそういううわべだけの知り合いが多くなった。
相手のことを詮索しない代わりに、自分もされない。それがとてつもなく楽な関係に思えているのは今も同じだ。
「なあ、いいバイトあるんだけど」
親しげに俺の横の席へと移動してきたこの男の名前も曖昧だ。ただこうして時給のいいバイトを紹介してくれることは珍しくない。
「なんのバイト?」
「イベントスタッフ」
今までも人からの紹介でバイトをいくつかしたことがある。たしか最後にしたのは夏前だったし、手持ちの金も少なくなってきていた。
「短期だし、めっちゃ稼げるよ」
「ねえ、なんの話してんの? 私も混ぜてよ!」
話に割り込んできたのは、先ほど飲み物を取りにいった女だった。
「はい、これ。晃のぶん。なにがいいかわからなかったから炭酸にしたよ」
そう言われて受け取ろうとした時。コップが手からすり抜けて床に落ちた。
……カランッというプラスチックの音とともに、炭酸の泡が床でぱちぱちと弾けては萎んでいる。