16歳、きみと一生に一度の恋をする。
「あーあ、もう。晃ってば、ちゃんと受け取ってよね!」
「わ、悪い……」
女は文句を言いながらも、俺が手を伸ばす前に拭いてくれていた。それを見ていた男たちが「やさしー」と過度に煽てている。
そんな中で、俺は自分の手を開いたり、閉じたりしていた。何回か繰り返して、感覚の鈍さが襲ってくる。
……また、来やがった。
「バイト。今回はいいわ」
「ん? そう? 了解」
「あと、もう帰る」
自分のぶんだけの金をテーブルに置く。俺がカバンを持って部屋を出ても誰も気にしていなかった。
外はいつの間にか暗くなっていて、駅前のネオンに負けないくらいの明るい月が浮かんでいる。
とぼとぼと今朝歩いた住宅街を進みながら、またなんともいえない浮いた気持ちになった。
俺はなんでこの道を歩いているんだろう。
じんわりと広がっていく罪悪感を抱えたまま家の前に着く。
帰りたくないのに、帰る場所はここしかない。
アンティーク調のドアの取手を引けば、母さんが作った晩ごはんの香りが漂い、玄関には父親の靴もあって、そこには幸せな家族が待っている。
……ガンッ。
気づくと俺はポストを殴っていた。痛さは感じない。
――『これ、絆創膏がわり』
自分のことを大切にしてほしい。
傷つけないでほしい。
そう願う一方で、俺が一番汐里にひどいことをしてる。