16歳、きみと一生に一度の恋をする。
学校に着いて、通常どおりの授業がはじまった。教室ではみんな仲のいい人たちで集まって休み時間も楽しそうにしているけれど、私はずっとひとりでいた。
それから三限目が終わって、次は教室移動。パソコン室にいくための準備をしていると、制服のポケットでスマホが振動していた。
【やっぱり今日は汐里が帰ってくるまで晩ごはんは食べずに待ってようかな。十時には終わりそう?】
メッセージはお母さんからだった。
普段、私が学校に行っている間はお母さんも仕事なので、よほどのことがない限り連絡は送ってこない。
おそらくこれは今朝のことが尾を引いているんだろうと思う。
お母さんにとって大切な人が突然離れていくという怖さが頭の片隅にあるのかもしれない。
【時間は混み具合によって変わるから、まだはっきりとしたことはわかんない】
【本当にご飯は先に食べてて】
【でもなるべく早めに帰るから大丈夫だよ】
私は連続でメッセージの返事をした。
この五年間、私とお母さんは支え合って生きてきた。そこにたしかな自信はあっても、裏切られたというお母さんの傷は簡単には癒えない。
それに対してどれほどの罪の意識を父が感じているのか。
こうやって自分たちには無関係なはずの芸能人の話題ひとつで、私たちの気持ちまで乱されてしまう。
家族を壊すということは、それまで積み重ねてきた思い出も、暖かだった日々のことも、ぜんぶ嘘のように思えてくる。
私たちはまだこんなにも父がしたことによって振り回されているのに、新しい家族を作って幸せに暮らしている父ことを考えると……どうしたって許せるわけがない。
私はゆっくりと親指を唇に当てる。けれど、寸前でハッと我に返って噛む前にやめた。
視線を爪に向けると、油性マジックで書かれたニコニコマークと目が合う。
晃が描いてくれた絵は昨日よりも薄くなっているけれど、やっぱり憎めなくて可愛い。
こんなの絆創膏がわりになんてなるわけないって思ってたのに……けっこう効果があるみたい。
心に渦巻いていた黒い感情が静かに波が引いていくように去っていった。