16歳、きみと一生に一度の恋をする。
富山さんは飲み物を買いにきていたようで、手にペットボトルを抱えている。
「俺らここで待ってるから早く行って」
「え、えっと……ふ、藤枝くんは別のクラスなので」
「クラスとか関係なくない? 誰かに聞いたりできるだろ」
「それは……」
富山さんが困っている。周りの人たちは巻き込まれたくないようで、見て見ないふりをしていた。
「ほら、さっさと探せよ! 俺ら気が立ってんだよ!」
「ごめんなさい。本当にどこにいるか知らないんです……」
「知らないじゃなくて探せって言ってんだよ!」
理不尽に怒鳴られている富山さんは、ビックリして手に抱えていたペットボトルを落としていた。
自分で探せばいいのに、偉そうに。こういう上下関係は見ていて気分が悪くなってくる。
関わりたくない。面倒くさい。頭ではわかっているのに、他の生徒たちみたいに素通りできない。
「富山さん。あっちで友達が呼んでたよ」
私は言いながら校舎のほうを指さした。
「い、今井さん……」
冨山さんが泣きそうな顔をしていた。
「ちょっと邪魔しないでくれない? 今俺らと話してるんだけど」
「人探しなら先生に聞いたらどうですか? さっきそこに生活指導の先生がいたので呼んできますか?」
「……ち」
三年生は舌打ちをして、通路から離れていった。私はホッと胸を撫で下ろす。同時に落ちていたペットボトルを拾い上げて富山さんに渡した。
「さっきのは嘘だから」
とっさに思い付いた言葉だったけれど、うまく信じてくれてよかった。
「今井さん、ありがとう」
「……べつに。私が個人的にムカついただけ。じゃあね」
私はぼそりと小さな声で答えた。