16歳、きみと一生に一度の恋をする。
本当はこのまま教室に戻るつもりだったけれど、気がつくと私は人気のない部室棟の前に立っていた。
校舎の影になっているこの場所は太陽も当たらないので、空気が湿っぽい。
見るからに虫がいそうだし、絶対に近寄りたくないと思っていたのに、今日も足が向いてしまう。
大きな靴跡を辿るようして、陸上部と書かれた一階の角部屋のドアを開ける。
三年生が血相を変えても探せない晃のことを私は簡単に見つけることができる。
「え、汐里?」
ほら、やっぱりここにいた。
晃はソファに座っていた。漂ってくるのは、石鹸の残り香のように甘い、きみの匂い。
「さっき、三年生があんたのことを探してた。すごい当たり散らしてて、クラスメイトの子が困ってた」
べつに報告しにきたわけじゃない。でもなんとなく、部室棟に来た理由が欲しかった。
「マジで。じゃあ、その子に謝っといて」
なんで私がと思う一方で、彼はあいつらみたいに自分が強いことを主張したりはしない。
他の人に比べて異彩を放っているけれど、それでも悪い人ではないことを私は知っている。
「そんなところに立ってないで、一緒に飯食おうよ」
晃もこれから昼食を取ろうとしてたようで、テーブルにコンビニの袋が置かれていた。
私はそっと彼の隣に腰を下ろす。自然と座った位置は昨日よりも近かった。
「そのメープルパン、好きなの?」
「べつに普通。ただ安いから買ってるだけだよ」
「ふーん」
晃が袋から出したのは、同じ味のふたつのおにぎりだった。
「そっちこそ梅おにぎりが好きなの?」
「べつに俺も普通だけど、おにぎりって色んな具を食っても結局梅が一番だなって感じない?」
「うーん。よくわかんないけど、私も今日の朝は梅おにぎりだったよ」
「じゃあ、一緒じゃん」
晃がにこりと目を細める。