16歳、きみと一生に一度の恋をする。
きっと他の人から見れば私たちが一緒にいるなんて、おかしいことだと思うだろう。
私だって学校で一番目立っている晃となんでこうして肩を並べているのかわからない。
でも、晃が纏う空気も匂いも声も、不思議なくらいとても落ち着く。そんな空気の中で、ふと彼のある場所に目が止まった。
「……手、どうしたの?」
握りこぶしを作ると浮き出る骨の部分に、真新しい傷ができていた。血は出ていないようだけど、一皮剥けてしまっていて赤くなっている。
「あー喧嘩、喧嘩」
晃は流すようにそう言って、おにぎりを頬張っていた。
誰も安易に近づけないような刺々しいオーラを持っているのに、毎日目に見える傷を作ってくる。
……私にはもう噛むなって言ったくせに。
私は思いついたように昨日晃が使っていた油性マジックに手を伸ばした。
「え、な、なに?」
彼は動揺していたけれど、私はお構い無しに右手を広げて、そこにニコニコマークを描いた。
「お返しだよ」
こんな気休めでも案外効果があることは私が一番よく知っている。
「……ふっ、ははは」
手の幅に合わせるように大きく描いた顔を見て、晃がずっと笑っていた。
「晃に比べて下手ではないでしょ?」
「じゃなくて、お前すげーなって」
「すごい?」
「うん。だって、ちゃんとくすぐったかった」
「……?」
意味がわからずに首を傾げると、晃は「なんでもねーよ」って、私の頭を二回撫でてきた。
その大きな手の中にニコニコマークが隠されているなんて、きっと誰も気づかない。
「なあ、連絡先交換してよ」
晃がポケットからスマホを出した。多分、昨日までの私だったら断っていた。でも今日はいくら考えても、断る理由が見つからない。
「うん。いいよ」
あっという間に追加された晃の連絡先。
べつに友達追加なんて特別なことでもないというのに、晃と指先ひとつで繋がることができるようになったスマホは、少し輝いて見えた。