16歳、きみと一生に一度の恋をする。
学校が終わると、私は駅から少し離れた場所にある定食屋に向かった。
個人経営してる店だけど、平日でもひっきりなしに客が訪れる。
バイト中の格好は白いシャツに紺色のスカート。首元で調整可能なエプロンもしている。
面接を受けた時にはキッチン希望にしていたけれど、人手が足りていると私はホールで接客をしている。
「いらっしゃいませ!」
学校では小さな声で話すことが多いけれど、バイトでは元気な声を出している。
最初は食事を運んだり注文を聞いたりすることに慣れなくて失敗ばかりしていたけれど、今は迷惑をかけずに働けていた。
「汐里ちゃん。週末バイト入ってたよね?」
バイトが終わって上がり作業をしていると、店の女将さんに声をかけられた。
「はい。土日入ってますよ」
「悪いんだけど他の子とシフト替えてもらえる? なんか平日だと委員会があるとかで、今週は難しいらしいのよ。その代わり、汐里ちゃんには他の日に出てもらえるようにこっちで調整しておくから」
「わかりました」
返事はしたけれど、時給が高い週末に出られないとなると、もらえる給料が変わってくる。
お金がたくさん欲しいとかじゃなくて、お母さんを楽にさせてあげたい。でも高校生の私が稼げる金額には限界がある。
着替え終わって店を出る頃には十時半を回っていた。
【バイト終わったら連絡ちょうだい】
【心配だから途中まで迎えにいくよ】
スマホを確認すると、お母さんからメッセージが届いていた。
【今終わったよ。大丈夫だから】と文字を打とうとして、人差し指を止める。
〝だ〟と打ち込むと、必ず変換機能の一番最初に〝大丈夫〟が出てくる。
……そういえば、学校にいる時に送ったメッセージも大丈夫だよって返したっけ。ちょっと癖になってるのかな。
父みたいに私はお母さんから離れたりしないし、そのぶんの不安は埋めてあげたい。
だから、大丈夫、大丈夫、大丈夫って伝えているうちに、大丈夫じゃないって言えなくなった。
弱音は吐かない。じゃないと、お母さんの負担になる。
頑張りたい。頑張らなくちゃ。そう思っていると……。
「今井さん」
ぽつりぽつりと外灯が光っている道で、冨山さんが歩いていた。彼女は私と同じでまだ制服姿だった。