16歳、きみと一生に一度の恋をする。
「今井さんもバイト帰り?」
「う、うん」
「私もね、駅前の白くまカフェっていうところで働いているんだ! 四月にできた店なんだけど知らない?」
「……ごめん。わかんない」
カフェなんてひとりじゃいけないし、同級生たちが行きそうな場所は自然と避けているから。
「今日は本当に助けてくれてありがとう」
「ううん。気にしないで」
「私、ずっと今井さんと仲良くなりたいと思っててね……」
その言葉にドキリとする。
私と友達だった子たちも最初はそうやって言ってくれた。でも父が好きな人を作って家を出たことを知った途端に、目の色を変えた。
私はなにもしてないのに、今まで穏やかに回っていた歯車が音を立てて壊れていく。
悔しかった。悲しかった。辛かった。だからいつも隠れてトイレで泣いてた。
もう、そんな思いをするくらいなら、友達なんてひとりもいらない。
「ごめん。私、誰とも仲良くするつもりとかないから」
冨山さんは悪くないのに冷たくしてしまう自分が嫌い。彼女の顔を見ることができなくて、私は足早に歩き去った。
【まだ帰ってこないの?】
タイミング悪く、またお母さんからのメッセージが届いた。
……なんかもう今は頭がぐちゃぐちゃだ。
早く帰らなきゃいけないのに、こんな気持ちじゃ帰れない。
【ごめん。仕事が長引いてて、もう少し時間がかかりそう。でも心配しなくて大丈夫だよ】
私は嘘の返信をして、スマホをポケットに入れた。