16歳、きみと一生に一度の恋をする。
向かったのは、いつも通りすがるだけの夜の街。
駅前の大通りにはお酒の匂いを漂わせているサラリーマンに、眠ること忘れたように騒いでいる大学生もいる。
いつもだったらそんな人たちのことを冷めたように見ている私も、今は騒々しい音に救われている。
もっともっとうるさい場所に行きたい。だって、静かすぎると余計なことばかりを考えてしまうから。
「おい」
しばらく歩いていると、男の人の声が背後から聞こえた。こんなふうに制服のままウロウロしていれば目立つことはわかっていた。
補導員か、あるいはナンパか。どっちにしても、今は全部どうでもいい。
「お前、なにしてんの?」
雑音の中でも鼓膜に残る低い声。聞き覚えがある気がして振り向くと、立っていたのは晃だった。
「……え、なんで……」
彼の服装は私服だった。一旦家に帰ったあと友達と遊んでいたのかもしれない。
こんなに人がいるっていうのに、なんで私のことを見つけてしまうんだろう。
今はひとりでいたいのに。
「なにしてんのって、聞いてんだけど」
晃はじっと私のことを見ていた。怒鳴ったりしなくても、静かに怒っていることはすぐにわかった。
「……なにって、遊んでるだけ」
「ひとりで?」
「いいでしょ、べつに」
「はあ……。とりあえず一緒に来い」
「イヤ。私はまだここにいたいの!」
反抗するように顔を背けると、グイッと力強く手を掴まれてしまった。
「遊びたいなら、俺が飽きるほど遊んでやる。だから今は来い!」
晃の力に敵うはずもなくて、私は手を引かれるまま歩き出す。
繋がっている指先からも怒っていることが、ひしひしと伝わってきた。
けれど、冷えている私の体温とは違って、晃の手は痛いくらい暖かかった。