16歳、きみと一生に一度の恋をする。


「ごめんな」

河川敷に流れる川のせせらぎに溶けてしまうような、枯れた声だった。

「なんで晃が私に謝るの?」

「きっとこれから、うんと幻滅されて怒られることが起きるから、かな」

「どういうこと?」

「まだ知らなくていい」

晃はそう言って私の頭を優しく撫でた。

またなにごともなかったかのように彼は歩き進める。

ゆらゆらと動いている晃の手には、しっかりと私が描いたニコニコマークが消えないでいた。

まだ手を繋いでいた熱が残っている気がするのは、そのせいだろうか。


「ねえ、明日も部室棟に行ってもいい?」

学校は嫌い。教室も好きじゃない。

でもあの場所に行けば、晃に会える。

そう思うだけで、視界が開けたように明るくなれる。


「いいよ。汐里が来たいと思う時に来たらいい。あの場所は汐里にしか教えないから」

晃が優しく笑ってくれた。

明日の約束。私たちしか知らない約束。

たったそれだけのことが私にはすごいことのように思えて、噛み合っていなかった心の歯車が、少しだけ上手に回りはじめたような気がしていた。


< 39 / 190 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop