16歳、きみと一生に一度の恋をする。
「ごめんな」
河川敷に流れる川のせせらぎに溶けてしまうような、枯れた声だった。
「なんで晃が私に謝るの?」
「きっとこれから、うんと幻滅されて怒られることが起きるから、かな」
「どういうこと?」
「まだ知らなくていい」
晃はそう言って私の頭を優しく撫でた。
またなにごともなかったかのように彼は歩き進める。
ゆらゆらと動いている晃の手には、しっかりと私が描いたニコニコマークが消えないでいた。
まだ手を繋いでいた熱が残っている気がするのは、そのせいだろうか。
「ねえ、明日も部室棟に行ってもいい?」
学校は嫌い。教室も好きじゃない。
でもあの場所に行けば、晃に会える。
そう思うだけで、視界が開けたように明るくなれる。
「いいよ。汐里が来たいと思う時に来たらいい。あの場所は汐里にしか教えないから」
晃が優しく笑ってくれた。
明日の約束。私たちしか知らない約束。
たったそれだけのことが私にはすごいことのように思えて、噛み合っていなかった心の歯車が、少しだけ上手に回りはじめたような気がしていた。