16歳、きみと一生に一度の恋をする。
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凛としてるその横顔が綺麗だった。
強く見えて、柔な瞳を追いかけていた。
それだけでよかった。
それだけだったら、許されると思っていた。
『お前、今井汐里だろ』
それだけじゃ嫌になった自分を殴りたい。
それから数日が経って、俺は今日も汐里と一緒にいた。
部室棟で昼飯を食うのはこれで何度目だろう。最初は警戒心をむき出しにしていた汐里も、最近じゃ躊躇なく隣に座ってくれるようになっていた。
「あ、失敗した」
汐里の親指の爪に描いた絵が困っているように口をへの字に曲げている。いつしかこのマークを描くことも日課になりつつあった。
「ちゃんと可愛く描いてよ」
「お前の爪がちいせーんだよ」
汐里は絵のクオリティに文句をつけるけれど、最後にはいつも嬉しそうな顔をする。
話せるだけいい。その瞳の中に少しだけ俺のことを入れてくれればいい。そうやって小さかった願望が、日に日に大きくなっていくのを感じている。
「晃は喧嘩してない?」
「してねーよ。つか、自分から喧嘩したことなんて一度もないからな」
「でも、しようって言われたらするんでしょ?」
「あのな、そんな飯食おうみたいに誘って喧嘩してくるやつなんていねーんだよ」
「はは、たしかにそうだよね」
汐里は会話を重ねていくうちに笑みも見せてくれるようになった。
その無防備な距離感と比例するように、心も近くなってきてる気がする。