16歳、きみと一生に一度の恋をする。
「晃」
病院を出て最寄り駅に着くと、誰かに声をかけられた。それは以前仲良くしていたこともある年上の女だった。
「最近、どこに泊まってるの? 前は何日もうちに泊まったりしてたのに、急に連絡が途切れるとかひどいじゃん」
酔いそうなほどきつい香水をつけている女は、親しげに腕を絡ませてきた。
「今日うちに来てよ。晃が着てた服もまだ残ってるよ」
「行かない」
「なんで?」
「彼氏いるだろ。もう泊まることはないから俺の連絡先は消して」
素っ気ない対応をすると、女は「なにそれ! 最悪」と、顔を真っ赤にしてどこかへ行ってしまった。
夜遊びをするようになったのは、家に帰りたくないという理由が一番だった。
最初は男友達の家を転々としていたけれど、次第に限界がきて最終的には自分に好意がある女を頼った。
そうやって生活をさせてもらっていた時期もあるけれど、今はもうやめている。
……まだ、感覚が鈍い。
俺は自分の手のひらを見つめた。
症状が出るとなにを触ってもすり抜けていくような気分で、薬を入れたってすぐに効果が出るわけじゃない。そのぐらい回復するのは遅いっていうのに、あの時は違った。
――『お返しだよ』
そう言って、汐里に手を触られてマジックで絵を描かれた時、一瞬だけ感覚が戻った。
くすぐったかっただけじゃない。
じんわりと暖かい彼女の体温もはっきりとわかった。
……ああ、やばい。もう会いたくなってる。
連絡をしようとしたけれど、汐里のことを困らせたくないので、スマホはポケットに入れた。