16歳、きみと一生に一度の恋をする。
「晃、お帰りなさい。お腹すいてるでしょ?」
家に帰ると、母さんが晩ごはんを作って待っていた。
病院で治療を受けた日は必ずいつもより多めの料理が食卓に並ぶ。栄養を取れば少なからず病気に効果があるのではないかという母さんの愛情だ。
「……あの人は?」
俺はぼそりと訊ねる。
「今日は遅くなるって」
「ふーん……」
「ねえ、まだ〝一彦さん〟のことお父さんって呼べない?」
定期的に手足の感覚が鈍くなるように、母さんは幾度となくこの質問を繰り返す。
「晃と一彦さんにまだ距離があるのはわかっているのよ。でも晃のことをいつも心配してくれてるの」
今の生活ができているのは、全部あの人のおかげ。だから感謝の気持ちだけは忘れないでと、この五年間イヤというほど言われてきた。
目に見えるもの、触れるもの。俺が着てるものも、胃に入っていく食べ物も、この家だって、あの人のおかげだということは理解してる。
だから苦しい。
だから芽生える、罪悪感。
「晩飯はいいや」
「……え、あ、晃……!」
母さんの呼びかけを無視して、二階へと上がる。