16歳、きみと一生に一度の恋をする。
男たちから何発殴られたのかはわからない。
意識が朦朧としている中で、気づけば俺は学校の部室棟にたどり着いていた。
ガタッとソファに横になって、ふらふらしている身体を休める。
……さっき、足に力が入らなかった。
まだ医学的にも解明されていないこの病気は、本来守るはずの自己免疫機能がなんらかの原因で脳を攻撃することによって症状が表れるんだそうだ。
自分の身体のことは自分が一番よくわかると言うけれど、手足の感覚障害は明らかに症状が出るたびにひどくなっていた。
早く大人になりたいのに、身体が成長していくほど誰かの助けが必要になってくる。
あいつを犠牲にして今の自分があるように、そうやって俺は誰かの負担になりながら生きていかなきゃいけないんだろう。
「……あき……晃」
どこかで柔らかな声がする。
閉じていたまぶたをゆっくりと開けると、汐里が心配そうに顔を覗きこんでいた。
「そ、その顔、どうしたの?」
これはデジャブというやつだろうか。たしか汐里が初めて部室棟に来た時もこうして起こされた。
彼女がここにいるということは、おそらく校舎では昼休みになっている。どうやら俺は少しの間、眠っていたようだ。
「また喧嘩したの? 大丈夫? 保健室の先生に見てもらったほうがいいんじゃないの?」
鏡を確認してないからわからないけれど、汐里に心配されるということは、相当ひどい顔をしているのだと思う。
「平気。そのうち治るよ」
「なんか冷やすもの持ってこようか?」
汐里があたふたとしながら、俺の頬にハンカチを当ててくれていた。
彼女に会いたくて仕方なかったというのに、顔を見ると殴られた痛さよりも心が締め付けられる。
「そんなに俺に優しくしていいの?」
「優しくしたらダメなの?」
「前はトイレットペーパーで拭けって言ったじゃん」
あの時の汐里は頑なに自分のテリトリーには人を入れたくないって感じで、その防御壁が目に見えるほどだった。
俺が無理やりよじ登ってしまったのか。あるいは元々、汐里の張っていた防御壁が薄いものだったのか。きっと、どっちもだろう。