16歳、きみと一生に一度の恋をする。
悔しいほどに
***
人を信じることにはうんざりしていた。
イヤというほど味わったからこそ、人と一線を引いているつもりだった。
きみを信じていたわけじゃない。
ただ、優しさという名の薬を塗られて、ちょっと気持ちが緩んでいただけ。
だから……こんなに心の奥が揺さぶられて、苦しくなる必要なんて、どこにもない。
学校が終わったあと、私はバイト先へと向かった。混む時にはなにかイベントでもあったんだろうかと思うほど、ひっきりなしに客が訪れるのに、今日は比較的に空いている。
「ありがとうございました!」
はきはきとした声で常連客を見送る頃には、時間は午後九時になっていた。
片付けをするために私はおぼんを用意して、食器を積み重ねる。
「あ……」
コップを持った時に手が滑ってしまい、ガシャンッ!と大きな音をたてて割れてしまった。
「……す、すみません!」
周りに客がいたので、慌てて頭を下げる。散乱しているガラスを拾っていると、指先を破片で切ってしまった。
「汐里ちゃん、大丈夫?」
様子に気づいた女将さんが急いで駆け寄ってきてくれた。
「大丈夫です」
「けっこう深く切っちゃったね。早く手当てしたほうがいいわ」
切ったのは右手の親指だった。うっすらと残っていたニコニコマークが血で滲んでいく。
――『汐里のことを裏切ったあの人は、今の俺の父親だ』
そう告げらた時、沸き上がってきたのは怒りじゃなくて、悲しみだった。
まだ頭の整理がつかない。でも、たしかに晃は私の手紙を持っていた。おそらく中身も確認されているだろう。