16歳、きみと一生に一度の恋をする。
「恋人と言えばさ、最近、藤枝くんと仲がいいよね」
前触れもなく振られた名前にドキッとする。
晃と会っていたのは部室棟が多かったけれど、校舎で話していたこともあるので、そういう場面を目撃されていたのかもしれない。
「私、藤枝くんと小中も同じ学校だったよ」
「……そう、なんだ」
「藤枝くんって、昔はすごい社交的でクラスのリーダー的な存在だったんだけど、なんか急に素行が悪くなっちゃってね。たしか、親が再婚してからかな。本当は名字も変わったらしいんだけど、周りも混乱するからって藤枝くんだけ学校では前の名字を名乗ってるみたいだよ」
冨山さんの話を聞きながら、ゴクリと唾を飲み込む。
「さ、再婚して変わった名字って……」
聞きながら、心臓がバクバクとしていた。
「たしか……蓮見、だったかな」
……ドクンッ。それを聞いた瞬間に、また血の気が引いていく。
〝蓮見〟は私が五年前まで使っていた名字だった。
やっぱりそうなんだ……。じわじわと現実が襲ってくる。
彼の本当の名前は、蓮見晃。
私たちのこと裏切ってまで父が新しく作った家族の中に、晃がいる。
なんだか吐き気がしてきて、また頭がぐらぐらしてきた。
「い、今井さん、大丈夫?」
「……うん、平気」
今は倒れないだけで精いっぱいなほど、全身の力が抜けている。
『お前、今井汐里だろ』
あの時、どんな気持ちで私に声をかけてきた?
『なんかお前って、危なっかしいじゃん』
どういうつもりで気にかけてくれた?
『もう噛むなよ』
なんで私に優しくしたの?
全部、ぜんぶ、知ってるくせに。