16歳、きみと一生に一度の恋をする。
貧血を起こしたことで、バイトは早めに上がらせてもらった。
ズキズキと右手の親指が痛むのは、怪我をしたせいだけではない。
ふと空を見上げると、綺麗な星が浮かんでいた。なんてことない光景も、無条件に晃と歩いた夜道のことを思い出させる。
と、その時。背後でなにかが横切った気がした。すぐに振り向いたけれど、なにもない。
……猫かな。
あまり気に止めずにそのまま家に帰ると、お母さんが笑顔で出迎えてくれた。
「おかえり、汐里」
お母さんは父のことも、父が選んだ女性のことについても語らない。
私の知らないところで大人の話し合いがされていたのだとしても、やっぱり父がしたことは身勝手だと思うし、許されることじゃない。
私がお母さんのことを守りたい。
支えてあげたい。
だから……晃とはもう関われない。いや、関わらないと決心した。
そして私は強い気持ちを表すかのように、また白い便箋と向き合う。
【裏切り者】
もちろん宛先は父の住所。手紙を手放したくて、すぐに届いてほしくて、寝る前にそっと外に出てポストに投函した。
〝汐里〟
なぜか、晃に名前を呼ばれた気がした。
柔らかくて心地いい声が、ずっと耳の奥に残っている。
うるさい。うるさい。
かき消すように耳を塞ぐ。
これ以上、心に入ってこないで。
もう、早く……私の中から出ていって。