16歳、きみと一生に一度の恋をする。


「ねえ、今井さん。あれって藤枝くんじゃない?」

「……え?」

冨山さんが指をさしていたのは、駅前のカラオケ店の前。

今から入店しようとしてるのか、それとも帰るところがなのかはわからないけれど、騒がしい男女の集団の中に晃がいた。 

……ドクン、ドクンと心臓が速くなる。

気づかれないように通り過ぎようと思っていたのに、晃はすぐ私に気づいた。


「い、行こう、冨山さん」

「え、どうしたの?」

私は冨山さんの腕を掴んで、別の道へと入ろうとした。けれど、逃げる前にあっさりと晃に追いつかれてしまった。

「待って」 

冨山さんの腕を離す代わりに、今度は私が晃に手を掴まれていた。

私の手なんてすっぽりと隠れてしまうほどの大きな手。

……そんなに力強く握らなくたっていいのに。

まるで、離さないと言われているみたいに感じる。
  

「汐里、ちゃんと説明させて」

名前を呼ばれて胸がぎゅっとなった。

なんでこんな気持ちにならなきゃいけないの?

晃が私に話しかけてこなければ、関わってこなければ、無関係でいられたのに。

「頼む、聞いて。俺は……」

「なにを聞くの? なんの説明があるっていうのよ!」 

感情のまま声を大きくすると、晃のほうから手を離してきた。

「……そう、だよな。ごめん」

彼はとても寂しそうな表情をしていた。

そんな顔、ズルすぎる。
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