16歳、きみと一生に一度の恋をする。
再び足早に歩きだすと、晃は追ってこなかった。
まだ手が熱い。相変わらず彼からもらった体温は冷めることを知らない。
「……大丈夫?」
冨山さんから心配そうに問われて、私はやっと一方的にどんどん歩き進んでいることに気づいた。
「あ、ご、ごめん。巻き込んじゃって……」
「私は全然平気だけど、藤枝くんと喧嘩でもしてるの?」
……喧嘩、か。
それだったらどんなに楽だろう。
「……あんなやつ、もう関係ないから」
「そう、なの?」
「うん」
もう乱されない。晃と出逢う前の私に戻ればいい。簡単なことだ。
「じゃあ、私、このままバイト行くね」
私のせいで駅から離れてしまったというのに、冨山さんは嫌な顔ひとつしなかった。
「あ、そういえば、最近うちの近くの道で女子高生が変な人に追いかけられたらしいから気をつけてね」
冨山さんが思い出したように教えてくれた。
……たしかこの前、少しだけ背後に誰かの気配を感じたような気がする。でもバイト帰りでも真夜中ってわけじゃないし自分は大丈夫だろう。
「うん。冨山さんも気をつけて」
「ありがとう。また学校でね!」
彼女と別れた私も、自宅には寄らずに定食屋へと向かった。