16歳、きみと一生に一度の恋をする。
「今井さんっていい子だよね。私たちお試し友達期間中なんだ。本当の友達になりたいって私は思ってるんだけどね」
「たぶん、あいつも思ってるよ」
口ではいらない、ひとりでいいって言うけれど、彼女の心に寂しさがあることはわかっている。
それを俺が埋めることはできないかもしれないけど、せめてなんでも話せる友達が汐里の傍にいたらいいなと思う。
「藤枝くんって今井さんのこと……ううん、やっぱりなんでもない。ごめんね。立ち入ったこと聞こうとしちゃって」
冨山でさえ簡単に勘づいてしまう俺の気持ちに、汐里は気づいていない。
自分のことには無頓着なうえに、人からの好意にも鈍い。
「今井さんのバイトならあと十分くらいで終わると思うけど、うちまで一緒に行く?」
「……いや、いい。その代わりこれをあいつに渡してくれない?」
そう言って冨山に預けたのは、ホームセンターで買った防犯ブザーだった。
「お守りがわり。俺からってことは内緒にして」
本当は自分が家まで送っていきたいけれど、それは許してもらえないだろうから、せめて防犯ブザーぐらいはと、でかい音が鳴るものを選んできた。
「自分で渡さなくていいの……?」
「汐里を苦しませたくないから。じゃ」
未練がましい背中をむき出しにして、俺は歩いてきた道を戻る。
なんで汐里を傷つけている家族の中に、俺がいるんだろう。
なんでただ傍にいたいだけなのに、俺たちの間にはこんなにも障害があるんだろうか。
俺は彼女に近づいちゃいけない。
俺とあいつは一番遠い場所にいるべきだ。
そうやって、頭でも心でも繰り返しているのに……。
俺はなにをしてても、汐里のことばかりを考えている。