16歳、きみと一生に一度の恋をする。
暖かいほどに
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長い間、閉ざしていた心の扉をきみは簡単にこじ開けてきた。
あれこれと後ろ指を指されることに慣れていた私に対して、きみの口から出てくる言葉には、いつも優しさが乗っていた。
暖かさが目に見える人は、初めてだと思った。
だから、今は悲しいというより、悔しい。
きみがただの藤枝晃ならよかったのに。
そしたら、迷わずに明日の約束ができるのに。
バイトが終わり、家に帰る頃にはいつも十時半を過ぎている。晩ごはんを食べずに待っていたお母さんと一緒に台所に立って、たった今煮込みうどんが完成したところだ。
「汐里は玉子が成功したこっちね」
「えー私、崩れてるほうでいいよ?」
「いいのよ。汐里は少し硬めのほうが好きでしょ?」
満月のように綺麗に成功している玉子は、たしかに私好みの硬さだった。
こうして遅い晩ごはんになってしまうことが多いけれど、お母さんと向き合ってご飯を食べられることが嬉しい。
「そういえば、ニュースで女子高生が通り魔に刺されたって言ってたのよ」
「うん。知ってるよ」
定食屋にはテレビがついているので、そこで流れているのを見た。
「本当に怖いわよね。汐里も気をつけてね」
「うん。大丈夫だよ。それにほら。友達にこれもらったんだ」
そう言って私はお母さんに防犯ブザーを見せた。
通り魔とこの前の自分のことが重なって、正直ひとりで夜道を歩くのが怖いなって思っていたら、バイトから帰宅してきた冨山さんが渡してくれたのだ。