16歳、きみと一生に一度の恋をする。
「汐里にはこういうことをしてくれる友達がいるのね」
防犯ブザーよりもお母さんは、私に友達がいることにホッとしてるような顔をしていた。
家庭環境が変わったことで、私は遊びに行かずにまっすぐ家に帰ることが多くなった。
そんなひとり遊びばかりを上手に覚えていく私を見て、お母さんも色々と察していたのだと思う。
「ねえ、お母さん。今度一緒に温泉にでも行かない?」
空っぽになったうどん鉢を洗いながら、私は隣で乾拭きをしてくれているお母さんに言った。
「えー温泉? どうしたのよ、急に」
「ちょっと前にお母さんの仕事場の人が温泉に行ったって言ってたでしょ? だから私たちも久しぶりに行けたらなって」
「いいわね。私も汐里とのんびり温泉に浸かりたいわ」
そのためには少し節約を頑張って、お金を貯めなくちゃいけないけれど、私も現実から離れてゆっくりしたい。
夜も更けると、お母さんは私よりも先に布団に入った。最近は睡眠薬に頼らずに眠れているみたいで安心する。
私は起こさないように襖を閉めて、自分の部屋で髪の毛を乾かしていた。そんな中で、視界に入ったのは冨山さんからもらった防犯ブザーだ。
なんで急に彼女がこれをくれたのかはわからない。
この前、変な人につけられたことは冨山さんにも話していないけれど、もしかしたら夜道を心配して渡してくれたのかもしれない。
……ピンク色で可愛い。なくさないようにカバンに付けておこう。
今日は心がずっと落ち着いている。
大丈夫。私はもう乱されたりしない。