16歳、きみと一生に一度の恋をする。


「あ、見て、藤枝くん来たよ」

男女問わず、彼が注目されるのはいつものこと。その多くが羨望だったり恋情だったりしてるけれど、なんだか今日は違う。

いつも晃のことを見て黄色い声を上げている女子たちですら、ひそひそと耳打ちをしている。

「ねえ、この窓ガラスって藤枝くんがやったんでしょ。さすがにヤバいよね」

「うん。なんか見た人がいるんだってさ」

周りからの妙な視線に晃も気づいていた。

……晃が窓ガラスを割った? 

聞こえてくる声はそればかりで、信憑性はなにもないというのに、噂ではすでに彼が犯人にされていた。

「藤枝。ちょっといいか」 

状況がよく理解できないまま、晃は澤村先生に呼ばれて職員室があるほうに連れていかれてしまった。

迂回して無事に教室に着いたあとも、クラスメイトたちの話題は窓ガラスのことばかり。

晃がバットを持って学校の周りをうろうろしてた。仲間たちを引き連れて校舎に入っていくところを見た。最終的にはガラスを割っている現場の動画がどこかに上げられているらしいと、みんな必死でSNSを開いて探していた。

……が、どうやら動画はまだ誰も見つけていないらしい。 

聞きたくなくても耳に届いてくる話は、人から人へと伝達されてどんどん肥大化していく。   

最初に窓ガラスが割れる音に気づいたのは、学校の警備員だったようだ。

駆けつけた時にはすでに逃げられていて、時刻は午後十時頃だったということまで噂で広まっていた。

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