16歳、きみと一生に一度の恋をする。
「私はただあのままあんたが犯人になれば、三年生が調子に乗ると思ったから」
晃の姿を長く視界に入れるのは久しぶりだ。黒髪の隙間から見える彼の瞳は、やっぱり綺麗だった。
晃のことを許したわけじゃない。事情を知っていて近づいてきたことにはまだ腹が立っているし、私の手紙を父に見せずに止めていたことも怒っている。でも……。
「大嫌いって言ったことは訂正するから」
「……え?」
「だって、家族のことは晃のせいじゃない」
父が私たちのことを捨てたことも、彼のお母さんと再婚して家族になったことも、晃が悪い理由なんて、ひとつもない。
大人の事情に子供は口を挟めない。
時には流れに身を任せるように従わなくてはいけないことがあるのは、私もよくわかっている。
「これは、貰っておくね」
私はカバンから外してきたピンク色の防犯ブザーを晃に見せた。
絆創膏がわり。お守りがわり。
彼がくれる本物ではない代わりのものは、私たちに少しの一線を引かせて、一緒にいる罪悪感を薄めている。
「うん。もらって」
晃は嬉しそうに笑った。
私は一歩足を出す。
離れるのではなく、彼のほうへと近づいた足を、背中から優しく吹いている追い風のせいにした。