16歳、きみと一生に一度の恋をする。
〝家族のことは晃のせいじゃない〟
彼女の気持ちを考えると、きっとその言葉を言うには勇気がいったはずだ。
葛藤も戸惑いもあったと思う。
それでもこうして、俺が近くいることを受け入れてくれてることが、たまらなく嬉しかった。
「ご馳走してもらってよかったの?」
「庇ってくれた礼だって言っただろ」
食堂を出て通路を歩いていると、突然視界が不安定にぼやけていた。
霞んでいるというより、眼球が揺れている。
おそらくこれも病気の症状だろう。身体に潜んでいる病巣は弱いところを見つけては攻撃しようとしてくる。
命に関わることじゃない。でも、少しずつ蝕まれていくような感覚に恐怖すら感じてしまう。
「晃、どうしたの?」
汐里が足を止めていた俺のことを心配そうに見ていた。
「なんでもねーよ。ほら、早く教室に戻らないとチャイム鳴るぞ」
「あ、待ってよ」
汐里がパタパタと足音を踏み鳴らして追ってくる。
いつか俺は彼女の先を歩くことが難しくなってくるかもしれない。
肩を並べることさえ、叶わないかもしれない。
ずっとなんて贅沢なことは言わないから、せめてもう少しだけ、彼女と同じスピードで歩いていたいと思う。