16歳、きみと一生に一度の恋をする。
放課後。珍しくまっすぐ家に帰ると、玄関に一彦さんの靴が置かれていた。
今日は仕事が休みだったのか、それとも早く帰ってきたのかは知らない。
気まずさを回避するために、そそくさと二階に上がろうとすると、ガチャリとリビングのドアが開いた。
「おかえり」
「……ああ、うん」
歯切れの悪い返事をする。やっぱり顔はまともに見ることができなかった。
「たまにはリビングで一緒にお茶でも飲まないか?」
「いや、俺は……」
断ろうとして、思い止まる。
靴がなかったから母さんはいない。この人とふたりきりになることなんて、滅多にないからこそ聞けることがあるんじゃないかと考えた。
「えっと、急須はどこかな……」
「多分、三番目の棚の上」
「おっ、あったあった」
家のことは母さんに任せているので、お茶を用意するまで十分もかかった。
ダイニングテーブルに向かい合わせで座ると、また気まずい空気が流れる。