16歳、きみと一生に一度の恋をする。
再婚したての頃は、一緒に出掛けたり、少しずつ父と息子の関係を作ろうと、俺も歩み寄っていたこともある。
けれど、汐里の存在とともに、ふたりが一緒になった経緯を知ると、それまでどおりに接することはできなくなった。
「学校はどうだ? もうすぐテストだろう?」
「……まあ、なんとか大丈夫」
「俺は理系なら得意だから、もしなにか躓くことがあったらいつでも聞いていいよ」
「……うん」
この五年間、まともに顔を合わせてこなかったけれど、よく見ると一彦さんの目元は汐里によく似ていた。
……やっぱり、親子なんだよな。
わかっていたけれど、しみじみと実感してしまう。
「あのさ、前の家族……」
「ん?」
喉まで出かかっている言葉に、唇が迷った。
汐里のこと。汐里が大切にしてる母親のこと。聞きたいのに、聞きづらいことばかりで、言い淀んでしまう。
だけど、躊躇している理由は他にもある。
母さんとふたりで暮らしていた時、苦労が絶えなかったせいか、俺に隠れて暗い顔をしてることもあった。でも今の母さんは毎日幸せそうにしている。
〝俺はこれからもずっと母さんの味方なんだよ〟
いつか言った言葉が、ブーメランになって返ってきた。
俺が余計なことを言って、今の生活を壊すわけにはいかない。
汐里のことが大切なのは変わらないのに、なんで守りたいものはひとつじゃないんだろうか。