転生令嬢はまるっとすべてお見通し!~婚約破棄されたら、チートが開花したようです~
二度目の婚約破棄
「ごめん。やっぱりお前とは結婚できない」
それは、寒い冬を終え、春の暖かさを取り戻してきた、ある夜の日のことだった。
婚約者と仕事帰りに食事をした帰り道、彼は突然そう言った。
「……え? どうして?」
私は歩道橋で足を止め、真っ白の頭のまま彼に問う。目の前で気まずそうに目を背ける彼とは出会って四年。付き合って三年。待ちわびてやっとプロポーズしてもらえたのに――これは、いわゆる〝婚約破棄〟というものだろうか。
「私、なにかした?」
「いや、お前はなにも悪くないんだ」
「じゃあどうして……!」
彼は、ずっと合わせようとしなかった目をゆっくり私へと向けると、申し訳なさそうにぽつりとこう言った。
「ほかに、好きな人ができた」
頭は真っ白のまま、目の前が真っ暗になるのがわかった。
どうして、もう結婚の約束を交わした相手がいるのにも関わらず、ほかの女へそんな気持ちを抱いてしまうのか。家族になることを目前にして、新しい恋愛なんてものをしてしまうのか。いや、彼を繋ぎ止められなかった私がいけないのか。
私の中にそんな悲しみと怒りの感情が渦巻いて、そしてそれを我慢することができなかった。
「じゃあ私はどうしたらいいの? このまま頷いて、あなたとの結婚を諦めるしかないってこと?」
「ちょっ、落ち着けって……!」
私が彼へ詰め寄ると、私を制止しようとする彼と歩道橋でそのまま取っ組み合いになってしまう。こんな場所で暴れるなんて危険とわかりながら、私は頭に血が昇っていてとても冷静ではいられなかったのだ。
「私は、私はっ……!」
――ただ、あなたと幸せになりたかっただけなのに。
その言葉を彼へ伝えることもないまま、気づけば私の体は真っ逆さまに落ちて行った。
自分から飛び降りたのか、彼に突き落とされたのか、事故なのかもわからない。最早どうでもいい。
とりあえず最後に見えた彼の顔は、ひどく歪んでいた。
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